☆小説です(*^^*)
この小説は2016年に投稿した雪桜(現在非公開)のリライト版です。
高校一年の秋。
私に初めて恋人ができた。
翔太郎、という一学年上の先輩で、突然彼から告白され付き合うことになった。
彼は校内で有名なグループの一人だったので、もちろん顔は知っていた。騒がしい目立つ男の子たちの中の人、私の中ではそんな認識だった。
それは体育祭の真っ只中だった。
私と友達は、グラウンドでサッカーの試合を終え、泥だらけになったお互いの姿を見ながら大笑いをしていた。前日の雨の影響で足場は非常に悪く、悲惨なものだった。
そもそもサッカーに無縁だった私たちは、バレーボールの競技を希望していたが、ジャンケンで負けてサッカーになった。だからと言って私たちはバレーボールが得意ではなく、ただバレーボールならなんとかなりそう、できるかも、といった印象だったからだ。
実際サッカーをやってみると、キャーキャー騒いでるだけで、何度も勢いよく大きく足を空振り、泥だけ跳ね上がった。全身がどんどん汚れ、顔にも飛び散る。それが面白くて、涙が出るほど笑った。試合どころではない。敵も味方もなく、大騒ぎで終わった。
試合後はお互いの顔を見てはまた笑い、とにかく顔だけでも洗おうと校内に向かった。笑い疲れた私たちはフラフラしながら昇降口に入った。
入った瞬間、ひんやりした空気と共に目に飛び込んできたのは、男の子たちの集団だった。しゃがみ込んでる人たちと、立っている人たち。私たちはピタッと笑いを止めた。
彼ら全員が私たちの方を見ていた。
少し沈黙が流れた。その後で、慌てるように私の隣にいた友達何人かが肘で合図を出しながら、
「お…おつかれさまです…」
と、小さな声を出し、おじぎをした。彼らと面識はないものの、なんとなく目立つ怖い先輩たちと、こんなところで目が合ってしまったので反射的にそうなった。私は、彼らが全員私を見ている気がして怖かった。固まっていた。
「ほら、この子だよね」
男子の一人がそう言って私を指さした。
私たちは更に息を飲んだ。何が何だかわからず、とにかく私は動けなかった。血の気が引き、足元と胸元がぎゅうっと縮こまる感じがした。
わ、私、何かしたっけ?
そう思い頭が真っ白になった。すると、
「ハタナカさん、オレと付き合って」
そんな言葉が突然聞こえた。
今、なんて、?
私たちはお互い顔を見合わせた。
「おい、ハタナカ メイってお前だろ?」
そう言って私の目の前に立った彼は、スラリと背が高く、キレイな顔だった。知ってる顔、よく見かける顔、一つ上の先輩。
「つきあってくださーい」
彼はそう言って私に手を差し出して、頭を下げた。その瞬間サラッとした髪からいい香りがした。ドキッとした。彼は少しふざけた顔で、ニヤッと笑い、私の顔を下から覗き込んだ。私は自分の耳がどんどん熱く赤くなるのがわかった。自分よりもずっと肌がキレイ、と、余裕がないはずなのに、そんなことが頭をよぎった。
なんで、なんで?
なんで私?
頭の中は?だらけだ。
「ことわらないよねー?」
「手をとってー!」
「はやく、はやく」
などとはやし立てる男友達。
私の友達はようやく、
「め、めい、どうする?」
「考えさせてって言えば」
と、小さな声で言ってきた。
「とりあえず手を取ってから考えなよ!」
と言ってきた男の子の声が少しイライラしてる気がして、私はとても焦ってしまった。
私は、サッと彼の手を取った。
温かい手だった。
男子たちから拍手が起きた。それに釣られて、私の友達も勢いはないものの、手を叩いた。私は手を急いで離した。
こうして、突如として私の恋人となった翔太郎は、
「じゃあよろしくー」
と言って、私の肩に手を回した。きゃーーと女友達が声を出した。そのまま彼が進もうとしたので、私は急いで靴を脱いで上履きに履き替えた。その間も彼は肩から手を離さなかった。
どこか現実味がない、夢のような、ふわふわしていて、怖かった。
よくわからないまま、私は彼に連れて行かれた。みんなもゾロゾロと付いてきた。廊下を歩き体育館に向かっているようだった。その間、他の生徒たち、特に女子が息をのんで私たちを見た。
え?!
見て見て!!
誰?あの子!
うそ!
ショック!
彼女いたの?!
など、さまざまな声が耳に入った。
これが冗談ではなく本当の事なら、私にとって初めての恋人だ。男の子と手を繋いだこともない。こんな至近距離で、肩を掴まれながら歩くなんて、十五分前には考えもしなかったことだ。
翔太郎はお構いなしに、堂々と私を体育館に連れて行った。体育館ではバスケットボールとバレーボールの試合が行われていて、歓声が響き渡っていた。人が溢れかえっていて、なかなか奥には進めなそうだったが、私たちに気づいた生徒たちはピタッと声を止めて、サッと道を開けた。
奥側のバスケの試合に、翔太郎たちの友達がいたようだった。
彼らは友達の応援に駆けつけたのだと思った。
私は相変わらず肩を強く掴まれていて、彼と体はピッタリと密着していた。
「夏央のメンタル崩壊」
翔太郎の友達の一人がそう言った。
「夏央ーがんばー」
翔太郎は適当な感じでそう言った。
試合中の男子の一人が、こちらを見た。
あ、知ってる顔。
この人を応援しにきたのか。
と、私は思った。
試合は負けていたようで、夏央という友達はもうやる気がなくなっていた。終了のホイッスルと共に、こちらを見ることなく裏口から一人出て行ってしまった。
と、同時に翔太郎の手が、私の肩から離れた。
突然のことで、私は少しバランスを崩した。
「なぁ、レン、こいつからLINE聞いといて」
翔太郎は隣にいた友達にそう言って、さっさと私たちに背を向けた。が、彼はふと自分の着ているシャツを見て、手で汚れを払うような仕草をしながら振り返り、
「てか、おまえさ、汚くね?」
と言って、足早に去って行った。
レン、という友達が、私の目の前に来て、
「ごめんねーオレに連絡先教えて」
と言い、自分のスマホを出してきた。
私は、よくわからないまま、頷き、レンに連絡先を教えた。
すると、残っていた彼ら五人ははみんな
「じゃあねーよろしくー」
「またねー」
などと、私たちに声をかけて体育館を出て行った。
その後、大興奮した私の友達は、私の感情を置いてきぼりにしたまま、あれこれと盛り上がっていた。
「めい!!彼氏が翔太郎くんなんてすごいよ?!」
「私は、レンくんと近づけて嬉しい!」
「友哉くんが一番じゃない??」
「待って待って、これから私たちも仲良くなれるんじゃない??」
などと、各自それぞれが楽しそうにはしゃいでいた。
当の私は、相変わらず、
?
?
が、何度も浮かんだ。
咄嗟に焦って翔太郎の手を取ってしまった自分自身にも、なぜ?と思うが、それよりもこの状況が理解できなかった。
なんで私?
話したこともないし、接点もない。
付き合おうと言われたが、好きだとは言われていない上に、好意も感じなかった。むしろ、冷たいと言うか…。
確かに自分の泥汚れはひどかったが、汚い、なんて言うかな。あんな汚れを払う仕草なんて、ありえない。連絡先だって、間に人を挟むなんて。でも、わからない、これから連絡がきて、仲良くなれるのかもしれない、そんな淡い期待もあった。とにかく、異性と付き合ったことがない私にとって、全てが想像や理想とはかけ離れていたが、あんな態度はもしかしたら、照れ隠しなのかもしれない、などと、都合よく理解しようとした。おそらく彼から連絡があるだろう、それから考えよう、と思った。
一方で、いまいち確信はないものの、自分に恋人ができたかもしれない、と言う初めての出来事は、私を少し得意げにした。漠然と過ごしていた日常に、色がつく感じだった。家でも、そわそわした。いつ着信音がなるか、そのことで脳が支配された。幻聴まで聞こえて何度もスマホに飛びついた。風呂場にもトイレにも持って行った。
が、その日彼からの連絡はなかった。
続く