某大手掲示板サイトの、靴好きが集まるスレッドの過去ログを読み漁っていたときに、ハーフラバー貼るか貼らないか問題について激論が交わされているのを見かけました。

 

 

 この問題、多くの人は「貼るも貼らないもそれぞれメリット・デメリットがあるから好きにすればいい」と考えておられると思うのですが、中には原理主義的な方もおられるようです。

 

 私の見た過去ログでは、貼らない(貼ってはいけない)派の主張の骨子は「ハーフラバーを貼ると、靴底から水分が抜けないため、中底や中物(コルクなど)が傷みやすくなる」というものでした。同様の主張がAll Aboutの記事で以下のように説明されています。

「履き下ろす前に、レザーソールに予めハーフラバーを貼り付けてしまうのはどうなの?」との声も、当然ながら聴こえて来そうな気がします。靴を長持ちさせる目的で、これをやられている人が案外多くいらっしゃるみたいですね。ただ、本当に長持ちさせたいのであれば、紳士靴の場合はむしろ逆効果ですよ。

ハーフラバーを貼ると確かに丈夫さや安定性、それに耐水性は増すのですが、それはレザーのアウトソールに厚い覆いをかぶせる事も意味し、持ち味である通気性は大きく損なわれてしまいます。その結果、インソール(中底)とコルクの間に溜まる汗の塩分の逃げ場がなくなり、その場で炭化するのを通じて、アウトソールではなく足に直接触れるインソールを劣化させる事に繋がるからです。インソールは一部のメーカーを除いて交換は事実上不可能ですので、どちらが靴としての長寿に繋がるかは明らかでしょう。

 

 これに対する貼る(貼っても構わない)派の主張は、「ハーフラバーを貼ると中底・中物が傷むなんて妄想だと靴修理職人が言っていた」、「本当にそんなことが起きるかは対照実験をしてみないとわからない」など、中底・中物劣化リスク上昇への疑義を呈するものでした。

 

 結局、過去ログではうやむやのまま議論が終わっていたわけですが、貼らない派が主張する通気性炭化について、本当のところはどうなのでしょうか。

 

《革底の通気性》

 革底には通気性があり、ハーフラバーを貼るとそれが損なわれる、という説は、「ハーフラバーを貼るとムレるから、ムレるのが嫌な人は貼らない方がいい」という文脈でも登場します。本当のところ、こういった現象は実際に起きるのでしょうか。

 

 この点、過去ログには出てこなかったのですが「そもそも革底に通気性などない」という説もあるようで、その根拠としては接着剤の問題が指摘されています。中底と本底(アウトソール)との間には接着剤の層があり、そこが水を通さないので、革底の靴であったとしても下からの通気によって水が抜けていくことはない、というのです。

 

 私はこの説を某靴修理職人さんのYouTube動画で見たのですが、別の方が実験で確認されている記事も発見しました。

 

 その後、接着剤の存在を考慮してもなお革底の通気性に意味があるという話を聞いたことはありませんし、私自身で革底のほうがムレないなと感じたこともないので、やっぱり革底を通じて汗の水分が抜けていっているということは無いんじゃないかなあと思っています。

 

《炭化》

 All Aboutの記事では「汗の塩分」が「その場で炭化する」と書かれています。普通に読むとこの文章は、「塩分」が「炭化」する、塩(しお)が炭(すみ)に変化する、ということを言おうとしているのだと思いますが、そうだとするとこの説は絶対に正しくありません。だって塩(しお)の主成分って塩化ナトリウム(NaCl)で、炭素原子(C)を含んでいないんですから、分解されても炭素が残るはずありませんもん。

 

 記事の文章を少し好意的に解釈すると、塩分が革を炭化させる、ということを言おうとしている可能性も考えられます。ただ、これも化学的に正しいかというと、私にとっては謎です。濃硫酸は脱水作用によって有機物を炭化させますが、塩化ナトリウムもこの現象を引き起こすという話を、私は聞いたことがありません(私が知らないだけかも知れません)。

 

 さらにもう少し好意的に考えると、汗の中の塩分以外の成分が革を炭化させるとか、インソールや中底内の成分を汗が溶かして中底裏側まで運搬しそれが蓄積して革を炭化させるとか、そういうことが起きるのかも知れません。実際All Aboutの記事には、炭かどうかはわかりませんがなんだか黒っぽいものが中底の裏側にこびりついたような写真が載っていますし。

 

 ただ、結局のところ、仮に何らかの化学反応が起きるのだとしても、革底に通気性がないのだとしたら、ハーフラバーを貼ることによってその化学反応が促されるというのは考えにくい気がします。