クロッカス | 罪歌

罪歌

狂愛罪歌





桜が舞い散る卒業式。

俺は、桜から告白された。



「これ」
「ナニコレ」
「クロッカス」
「え、いきなり何」
「あと、私あんたのこと好きだから」
「は?」
「返事は、十年後くらいにでも頂戴よ。この場所で」



意味がよくわからなかった。


クロッカス(というらしい、紫色の花)を渡されて、好きだと言われて、返事は10年後と言われて。


「ねえ、あんたさ」
「な、なに」

「桜の花言葉、知ってる?」



「…桜の花言葉?」

「うん。桜」


…綺麗な花言葉だろうということはわかる。
でも、やっぱり花言葉には興味がなかったから調べたことなんかなく、全然知らない。



「私さー、この時期が一番好きなんだよねー」
「なんで?」

「クロッカスと桜が咲く時期だからかな」

「あ、そういやなんでクロッカスなんだよ?つーか、いきなり好きって言われて戸惑ってるこっちの身にもなれ」


「桜の花言葉、知りたい?」

「話をさらっとそらすな。知りたいけど」



こいつの話術は本当にすごい。

いつの間にか、ホイホイと相手のペースに乗せられてしまう。



「心の美しさ。精神の美」

「……」



「それから、」



桜は立ち上がって桜の花びらを一枚取る。

そして、俺を振り返った。




「優美な女性」




ニコッと笑った彼女が、あまりにも綺麗で驚いた。

こんなに綺麗だったか、それとも桜のせいなのか、本当に驚いた。






「優美な、女性…」


「クロッカスの花言葉も教えてあげようか?」



戸惑いながら、頷く。

彼女は賑やかな声のする方へ、歩き出す。
俺も釣られて、立ち上がる。


「クロッカスはね、青春の喜び」


一歩、彼女が進む。


「愛をもう一度」


一歩、彼女が進む。


「私を、裏切らないで」


彼女が立ち止まる。





「――――」

「!!」




ここで、と最後に呟いて、桜は正門の方へ歩いて行った。

俺を、桜の木の下に置き去りにして。










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最後の花言葉。


クロッカス  青春の喜び、愛をもう一度、私を裏切らないで



       貴方を、待っています。