よく買い物に来る羊夫婦がいる。いや、苗字がムトンだから私の中で羊って呼んでるだけだけれど。

羊夫婦はかなりの年寄、そしてケチである。常にセール品や値引き商品を求めて来店し、賞味期限が迫っている商品を見つけ出し割引をねだってくる。そしてカタツムリと同じスピードで動くので羊夫妻が来ると必ずレジが長蛇の列となる。マダム羊は愛想がいいがムシュー羊は常にムスッとしていて、籠からレジ台に商品を置くスピードがあまりにも遅くて迷惑なので手伝うけれど一度もメルシーを言われたことがない。

そのムシュー羊が財布を忘れていった。別の客の1人がその財布を見つけ、私に預けていった。

まもなく血相を変えて戻ってきたムシュー羊、かなり焦っているのかいつもの倍速くらいで店に入ってきて「財布はないか?」と聞いてきた。やればできるじゃない、常にそのくらいの速さで動いてちょうだいよ、と思いつつ「はい、あなたラッキーよ。お客さんが見つけて届けてくれたのよ」と言って財布を渡すと、「誰が拾った?」聞くから「知らない人」と言ったらフン、と言って出ていった。

財布を保管していてやってもやっぱりメルシーの一言が言えないのね。 

フランス人って謝らないけれど「メルシー」、は連発するのにね。残念な羊だわ。