「あ、おはよう、兄さん!」

 

 

「おはようございます、ライファ様」

 

 

「……おはよう、二人とも」

 

 

朝、ライファがリビングへ降りてくると、妹のシーファが朝食を食べていた。

 

 

一方キッチンでは、千菊が手際良く朝食の用意を進めている。おそらくライファが起きてくるタイミングを見計らっていたのだろう。

 

 

「すぐ出来上がりますので、座ってお待ち下さい」

 

 

「うん。ありがとう、千菊」

 

 

朝食が出来るまでの間、手元の端末を眺めるライファ。ずらりと文字が並んだそれは、ニュースか、研究の資料か、はたまた別のものか。

 

 

少しすると食事の乗った皿が運ばれてきた。今日の朝食は、冬の朝にはぴったりな温かいスープとクロックマダムだ。

 

 

「冷めないうちにどうぞ」

 

 

「ありがとう。いただきます」

 

 

端末をテーブル脇に置き、パンを一口。

 

 

「ん、美味しい」

 

 

「でしょ〜!」

 

 

そう言うシーファは向かいの席でニコニコとしている。

 

 

「どうしてシィが得意げなんだ?」

 

 

「今日のシーファ様は早起きしていらして、朝食作りを手伝って下さったのですよ」

 

 

成程、とライファは頷く。それを褒められた事による喜びだったのか、と。

 

 

「えへへ、兄さん達の口に合って良かったぁ」

 

 

"兄さん達"という口ぶりからするに、千菊からの評価も良かったのだろう。

 

 

こんな日常を微笑ましく思いながら、賑やかな時間を過ごした。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「さて……しばらく千菊と自室に籠るよ」

 

 

朝食を済ませ、席を立つ際に双子の妹にそう告げる。

 

 

「うん、分かった。……研究は良いけど、適度に休んでね?」

 

 

「おや、釘を刺されてしまいましたね。ここ最近のライファ様はやはり根詰めすぎだったのでは?」

 

 

シーファに便乗してか、千菊からも指摘を受ける。が、それにはすぐさま反論する。

 

 

「あぁ、分かってるよ。というか、同じ部屋にいる事が多いんだから、千菊はむしろ止めるべき立場じゃないのかい?」

 

 

「これは耳が痛い。いつもライファ様が"あと少しだけ"と仰るものですから、つい」

 

 

思わぬ反論に苦笑する千菊を連れ、リビングの扉を開ける。……と、出際に一人の少女とぶつかりそうになる。

 

 

「あらあら、お兄さんに千菊はん。かんにんなぁ。怪我はない?」

 

 

それはもう一人の同居人、琥白なづなだった。

 

 

「なづなこそ。怪我してないかい?慌てると危ないよ」

 

 

「うちは大丈夫やよ。ほんまかんにんなぁ」

 

 

申し訳なさそうに眉尻を下げるなづな。

 

 

「あ、なづな。しばらくの間シィを頼むよ」

 

 

二人と入れ違いにリビングへ入っていくなづなにそう伝えると、彼女は「わかったわぁ」と手を振り返した。

 

 

◆◇◆

 

 

部屋に戻ったライファは机上の資料を手に取る。

 

 

「さて、千菊はこの資料分を頼める?オレはこっちをやるから」

 

 

「かしこまりました」

 

 

"自室"と言ったものの、ライファの部屋には研究に必要な資料や書籍物などが多くあり、軽い書斎と化している。

 

 

よほど新しい研究対象を見つけない限りは、部屋にある資料だけで事足りてしまうだろう。

 

 

「……そういえば、今日はライファ様とシーファ様の誕生日ですね」

 

 

各々で作業中、ふと千菊がそう呟いた。

珍しく朝から賑やかだった今日は、12月24日だ。

 

 

「もうそんな日だったのか」

 

 

「えぇ。おめでとうございます」

 

 

「……ありがとう。妹以外に祝われるのはかなり久し振りだから不思議な感覚だな」

 

 

ライファもそう返して、思い出した。

 

 

(そういや、シィに買ったプレゼントがあったな)

 

 

壊れたり失くしたりしないよう、机の片隅に置いておいた小袋。ちょうど1ヶ月前くらいに、妹と買い物に出た先で買ったものだ。

 

 

勿論、妹には内緒で。……と言っても誕生日には毎年プレゼントを贈りあっているため、お互い「今年は何をくれるだろう」くらいの感覚だろうが。

 

 

「今年はシーファ様に何を買われたのでしょう。差し支えなければお伺いしても?」

 

 

「髪飾りだよ。シィと寄った店で偶然良い物をね。…シィは、オレが買っていたのに気付いていないようだけど」

 

 

そう言って、机の端の小さな袋を見遣る。その穏やかな視線に気付き、

 

 

「良い買い物をされたのですね。きっと、シーファ様も喜ばれると思いますよ」

 

 

「そうだと良いな」

 

 

他愛もない話を交わしながら、手元の資料に視線を戻す。……そういえばいつ渡そうか、という思考が少し過った。

 

 

◇◆◇

 

 

一方、ライファ達が部屋に戻った後のリビングでは。

 

 

起きたばかりのなづなが、ソファーでくつろぐシーファの隣に腰掛ける。

 

 

おはよう、なづちゃん。今日もゆっくりだね」

 

 

「シィちゃん、おはようさん。どうにも朝は苦手やわぁ」

 

 

小さく欠伸をしながら、朝の挨拶を交わす。

 

 

「あ、そういえばなぁ…」

 

 

欠伸をきっかけに思い出したのか、先程すれ違いざまにライファから頼まれた事を伝えると

 

 

「もう兄さんってば、わたしは子供じゃないんだから~……」

 

 

と、シーファは困り顔を見せる。彼女もとっくに成人している身なのだが、兄から子供扱いされていると思える場面はいくつかあるようだ。

 

 

「ふふ。シィちゃんは立派なお姉さんやもんなぁ。"子供扱いせんといて~"って言うてみたら?」

 

 

「言った事あるよー!でも"子供扱いじゃなくて可愛がってるだけ"って返されて、それ以上言い返せなかったや」

 

 

バカにしたり、自分より下に見ているわけでは決してないという意思を感じ、言い返せなかったというシーファ。……ライファの場合は、本音なのか宥めるために言ったのかが分からないが。

 

 

「あら、そうなん?お兄さんがそう言うならええと思うんやけど……」

 

 

「あの性格に付き合ってると色々と思うところがあるんだよ~……」

 

 

なづなの目覚まし代わりにひとしきり雑談に付き合うと、唐突に「あ、そうだ!」とシーファがある物を取り出す。

 

 

「ちょっとなづちゃんに見て欲しいんだけど……これ、今年の兄さんへのプレゼントで買ったんだけどね?」

 

 

取り出したのは兄に渡す予定の物の一つ。あの雑貨屋で買ったファッションリングだ。

 

 

「あらあら、お洒落な指輪やねぇ。お兄さんによう似合うと思うわぁ」

 

 

「ほ、ほんと?兄さんが着けてくれたら嬉しいなって思って、わたしが勝手に選んじゃったんだけど……兄さん、喜んでくれるかな……?」

 

 

「そんな心配せんでも大丈夫やて。自信持ちぃ」

 

 

不安げな様子のシーファを励ます言葉は紛れもなく本音で。ただ、内心、

 

 

(まぁ、シィちゃんがあげる物なら何でも喜ぶと思うけどなぁ)

 

 

なんて思ってもいたり。どちらにせよ悪い方に転がることはない事を伝えようと、なづなも言葉を紡ぐ。

 

 

「……ありがとう、なづちゃん。なんか自信出てきたかも!」

 

 

「それは良かったわぁ。そんなシィちゃんにもう一つ、良い物があるんよ」

 

 

「え!なになに?」

 

 

「冷蔵庫の中見てみぃ」と言われ、キッチンの冷蔵庫の扉を開けると……

 

 

「なづちゃん、これって……」

 

 

◆◇◆◇

 

 

そして夕方頃、自室で資料の読み込みをしていたライファは下から駆け上がってくる足音で我に返った。

 

 

「兄さん!今降りて来られそう?」

 

 

ノックをして顔を出したのはシーファだ。心なしか笑顔に見える。

 

 

「シィ。……構わないけど、何かあったのか?」

 

 

「良いから、良いから!」

 

 

 

 

 

 

シーファに急かされ、二人でリビングに降りると、

 

 

「あら、二人とも来はったなぁ。ほな、始めましょか」

 

 

そう言うといそいそとキッチンの方へ行き、何かを用意し始めた。

 

 

「兄さん。はい、これ!」

 

 

いつの間に持ってきたのか、シーファが綺麗にラッピングされた箱を差し出している。

 

 

「お誕生日おめでとう」

 

 

「ありがとう。……そうだ。オレも、これを」

 

 

箱を受け取り、代わりに自分も、と小袋を差し出す。

 

 

「誕生日おめでとう、シィ」

 

 

「わぁ、ありがとう兄さん!開けてもいい?」

 

 

その問いに頷くと、シーファは嬉しそうに小袋を開ける。そしてプレゼントの中身を見て、目を輝かせた。

 

 

 「これ、もしかして、この前兄さんがイヤリングを買ってくれたお店の……?」

 

 

「そうだけど……よく分かったね」

 

 

「実は買ってもらった物ともう一つ気になってたのがこれで……ちょっと値段が張ったからつい遠慮しちゃったんだ」

 

 

「だから嬉しい」と満面の笑みを見せる。

 

 

「それは良かったよ。あくまでオレの目で見てシィに似合うと思って買ったんだけど……シィも狙ってた物なら間違いないな」

 

 

「えへへ……それにしても、二人揃ってアクセサリーを買ってたなんて、"双子のシンクロ"みたいなのって本当にあったりするのかな?」

 

 

「なーんて!」と言う妹を不思議そうに思いつつ、ライファも貰った箱を開け……目を見張った。

 

 

「これは……指輪?」

 

 

中にはギフト用と思われるタオルセットとブックマーカー、それから指輪が入っている。

 

 

「あ、それなんだけどね…?わたしも、兄さんに似合うかなーと思って買ってみたんだけど……どうかな?」

 

 

顔色を伺うように尋ねてくる事が更に疑問を呼ぶが、

 

 

(もしかして、オレがあまり派手な物を好まないのを考えて…?)

 

 

それでも"これ"を選んだのは、きっと何か思う事があったのかもしれないが……ライファにはそれを知る由もない。

ただ今は、自分のためを思って妹がこれを選んでくれた事が嬉しかった。

 

 

「ありがとう、シィ。嬉しいよ。大事にする」

 

 

普段使いできる他の物に対しても同じ気持ちを含め、そう返した。

 

 

「ふふ、二人とも『ぷれぜんと』を渡せたみたいやなぁ」

 

 

その様子を見ていたなづなが二人に微笑む。そして、ちょいちょいと手招きし

 

 

「次は、こちらやで」

 

 

手招きされた先は、いつもの食卓……それも、普段より豪華な食事が用意されている。

 

 

「千菊、これは……」

 

 

「せっかくのお二方の誕生日ですので。腕を振るわせて頂きました」

 

 

「千菊はんが作った『けーき』もあるんよ。うちも少し手伝わしてもろうたんや」

 

 

キッチンからなづなと千菊が答える。

 

 

「わ〜、美味しそう!さすが千菊さん!」

 

 

「ほらほら、シィちゃんもお兄さんも座って。せっかくのお料理が冷めてまう前になぁ」

 

 

そう言われると、シーファは「はーい」と返事をし、席に着く。

 

 

「全く……こんなに賑やかな誕生日は初めてだよ」

 

 

普段にない騒がしさに苦笑しながらも、ライファも食卓の椅子に座る。

 

 

「では、改めて……」

 

 

 

 

「「誕生日おめでとう!」」

 

 

 

◆――――◇――――◆――――◇――――◆

 

 

こんばんは!テオです

 

という事でお祝いSSでした!

いい兄さんの日に書いたSSの続きのつもりでしたが、二人だけで祝うか、うちの子達を絡ませるか悩んだ結果…せっかくなので他の子も少し出そうということになりました。

 

とは言っても、あまり多く出し過ぎても今度は俺が扱いきれなくなるので(おい)今回は2人追加だけ。

うちの子9人いますからね(笑)

 

また、少しずつうちの子達を出していけたらなと考えていますが、それはまた別の話で。

 

 

といった辺りで……

 

双子、誕生日おめでとうー!!

 

 

 

 

本日も最後までお読み下さいまして、ありがとうございます!

テオでした。それでは、また! (* ̄▽ ̄)ノシ マタネ-