テギョンはイライラする気持ちをなんとか押さえ、出かける身支度をすると車に乗り込み事務所へと向かった。
今日の午前中はオフ。
ミニョの顔を見ていきたかったが、部屋に行けばミナムももれなくいるため行くこともできない。
(アイツはずっとあのオバサンの家にいればよかったんだ!!)
ドンとハンドルを叩く。
せっかくのオフだが社長に会って自分の母が会いたがっていることを告げなければならない。
何をどこまで話せばいいのか・・・。
事務所に到着すると車を停め、足早に社長室へと向かった。
「おぉーテギョン!今日は午前中はオフじゃなかったか?どうしたんだ?」
机で書類に目を通していた社長は突然のテギョンの来訪に驚いていた。
「ちょっと・・・・社長に話が・・・・・。」
「え?話?どうしたんだ?ミニョさんのことか?」
「いや、そうじゃない。・・・・・・・・」
社長の顔を見ていると、なかなか言い出せない。
事務所に入って数年、ずっと言わずに隠してきた事実。
伝説になってしまった自分の出生。
(これもアイツのためだ!前に進めるには話すしかない。)
テギョンは覚悟を決めると、口を開いた。
「昨日、俺の・・・母親から連絡があって・・・・・。」
「え?お前の母親?!母親から連絡があったのか?!」
書類に目を通していたアン社長が驚きながら顔を上げた。
「はい・・・・・・。」
「そうかぁ!!連絡してくれたんだな。良かったじゃないか!!じゃあお母さんに会ったのか?」
「ええ、まあ・・・・・。」
アン社長はテギョンに近づいて手を握り、励ます。
しかしテギョンの浮かない様子に少し疑問を感じた。
「??どうした?初めて会ったんだろ?お母さんに・・・・。どうだったんだ?」
「実は・・・・・、母を知らないのは嘘で・・・・・、幼少の頃は母の元で育ったんだ。ただ・・・、言えば母に迷惑がかかるから社長には知らないと・・・・・・。」
「そうか・・・・・、お前も複雑な事情があるんだなぁ。」
「それで、今さらだがその母が社長にひと言御礼が言いたいと言っていて・・・・。」
「おぉ、そうかぁ!俺は大歓迎だ!俺もぜひお前のお母さんに会ってみたい!じゃあ、そうだな・・・・日にちは・・・・・。」
アン社長が手帳を取り出しページをめくり始めた。
「おまえのスケジュールもあるから・・・・、そうだな・・・・・、明日の晩でどうだ?」
「ええ・・・・。伝えておきます。」
「どうしたんだ?テギョン・・・・、元気ないなぁ・・。そうだ!ミニョさんも連れてきたらいい。せっかくお付き合いしてるんだ。お母さん、喜ばれるぞ?その時はちゃぁんと女性の格好させてこなきゃだめだぞ?アッハッハッハー!!いやぁー、これでちゃんとテギョンのお母様にもご挨拶ができる!どんなお母様だろうな・・・・・・。」
アン社長のあまりの上機嫌に、テギョンはもう最後の方は耳に入らなかった。
ただの親の挨拶ではない。
母親がモ・ファランであることに驚き、そしてそれを公表するつもりであることにさらに驚き・・・・。
キム記者の話もすれば次は頭を悩ませるはず。
上機嫌に笑っているアン社長を見て、テギョンの心の内は複雑だった。
お昼が過ぎて、今日はソウルの追加公演のリハーサルが入っていた。
ミナムを宿舎に残し、4人はバンに乗り会場へと向かう。
「どうしたんですか?ヒョンニム?私の顔に何か付いてますか?」
テギョンがまじまじとミナム扮するミニョの顔を上から下まで右から左まで食い入るようにじーっと見つめていた。
「いや、何でもない。」
ミニョだと確認すると立ち上がり席を座りなおす。
すると、シヌとジェルミがクスクスと笑い出した。
「クックックッ・・・・・・、フッフッフッ・・・・・。ダメだ、腹イタイ。」
ジェルミはこらえきれずお腹をおさえ完全に笑っている。
テギョンがジェルミをひと睨みすると、あまりの怖さに片手で顔を隠した。
「どうしたのですか?あーぁ、ミナムオッパのことですね?すみません、わたしからも謝ります。もうしないようにちゃんと言いましたから・・・。」
「あぁ、お前の兄貴はホントに曲者だな。」
ミニョがペコっとテギョンに頭を下げる。
席を立ってテギョンの隣りに座りなおすと、手を当てて耳打ちをした。
「あのー、さっき、キム・ジュン先生に連絡したんです。」
すると、次はテギョンが手を当ててミニョの耳に耳打ちをした。
「え?何て言ってアポイント取ったんだ?」
「『コ・ジェヒョンの娘ですが、父の話を聞かせてください。』と。」
「ふーん。」
「オッパはアン社長に話をしたのですか?」
「ああ、さっきな。『母が挨拶をしたい、と言っている。』とだけ。」
「そうですか・・・・。」
2人のヒソヒソ声が車内に小さく聞こえる。
傍から見れば恋人同士の内緒話。
シヌとジェルミはピッタリくっついて話す2人を見て、呆れながらため息をついていた。
A.N.JELLの公演会場
設営準備真っ最中のなか、メンバーが音あわせの為会場入りした。
メンバーがリハーサルが出来るように音響関係はセッティング済み。
それぞれが思い思いに練習をし、最終チェックをしていた。
「それではオープニング曲から合わせまーす!お願いしまーす!」
スタッフの合図で『相変わらず』が流れ始める。
誰もいない客席にテギョンの声が響き始めた。
サランウン アニッゴラゴ チョルッデル アニッゴラゴ
(愛ではないと 絶対違うと思っていた)
メポン ソッキョ ワッチマン ネマムン チャック ノル プルゴ
(いつも騙してきたけど 僕の心は君を呼んでいる)
ミニョにとっては2回目の公演。
東京に続いてのソウル。
前回、自分が一般客として客席で聞いていたこの会場。
ミニョはキーボードを弾きながら、先月この会場でテギョンに告白された日のことを思い出していた。
(ステージからはこんな眺めだったのね・・・。あの日のことが嘘みたい。)
目まぐるしく駆け抜けたこのふた月。
前半は女であることがバレないように、毎日が崖っぷちで・・・。
もうお別れだと決意した日に、この会場で告白された。
あれからひと月。
テギョンへの思いはさらに膨らみ、こうしてまたそばにいる・・・。
(ほんとうに私を見つけてくださって、ありがとうございます。本当に・・・・・・・・・私でいいのですか?こんな私でいいのですか?)
前を向けば、誰もいない客席に向かって歌っているテギョンの後姿。
明後日にはここがA.N.JELLのファンで再びいっぱいになる。
(ここに入りきらないほどあなたには、たくさんのファンの方がいらっしゃるのに、なのに、私は・・・・・・、こんな男の姿ばかりで・・・・、本当にごめんなさい。)
テギョンの後姿にむかって心の中で呟く。
もうすぐ『相変わらず』後半のテギョンと歌うパート。
ミニョは頭を切り替え、歌うことに集中した。
テロヌン サランイ ホグン ヌンムリ ウリル ヒン ドゥルゲヘド
(時には愛が 時には涙が 僕らを苦しめても)
前を向いていたテギョンがミニョのほうに近づいてくる。
すぐそばまで来ると、こちらを向いてそのまま歌い続けた。
サランへ サランへ ネ ギョッテ ノマン イッスミョン ドゥエ
(愛してる 愛してる 僕のそばに 君さえいればいい)
愛してる 僕のそばに君さえいればいい
そう歌い終えるとテギョンはミニョを見て微笑んだ。
(それは私に言っていただいているのですか?そう思っていいのですか?)
テギョンの歌声、笑顔に心が熱くなる。
ミニョはキーボードを弾きながら、ひと粒だけ涙を流した。
曲の最後の方は涙をこらえるのに必死で、ミニョはキーボードだけを見て歌い続けた。
ヨジョニ サラン ハナバ ヨジョニ キダリナバ
(まだ愛してるんだ まだ待ってるんだ)
モリル ソギョ ボアド カスムン ソギル スヌン オンナバ
(頭の中は騙せても 心の中は騙せないんだ)
サランウン ハナ インガバ ネ マウン ピョンジ アンナバ
(愛はひとつだから 僕の心は変わらない)
ノル ヒャンエ ヂョッキョン サラン イジェヌン ダマラルス イッダゴ ノル サランへ
(君のために守ってきた愛を 今なら全部言えるよ 君を愛してる)
(良かった・・・。ちゃんと弾けて・・・・。)
ミニョは途中で止めず弾き終えたことに安堵し、キーボードから手を離すと前を見た。
すると、テギョンとシヌがステージの前方に出て、客席の同じ方向を見て立ち止まっている。
どうしたんだろう・・・・・・・とミニョもその視線の先をたどった。
(えっ?あれはどういうことかしら!!)
ミニョも驚き開いた口が塞がらない。
「え?どうしたの?なになに?」
3人が固まっているので、不思議そうにジェルミもドラムセットから前に出てきた。
「えっ?うそっ?!なんであそこにミニョがいるの?!」
ジェルミは客席のミニョと、ステージに立っているミナム扮するミニョを交互に見てキョロキョロしている。
驚くのも無理はない。
前列20席前後の辺りに、ミニョがユ・ヘイと2人で客席から手を振って座っていた。
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