通勤路を歩いていると

よく会う、元気のいいおばあさん。

今朝はなにやら険しい顔をして、

手にロープを持って道に立っている。

 

 

 

 

 

 

 

なんでも家のフェンスに穴が開いて

そこから飼っている山羊たちが

逃げ出して困っているらしかった。

 

家畜ではなくペットとして一匹一匹

名前を付けて可愛がっている山羊が

ご近所をうろうろしているのだとか。

 

お腹が空けば帰ってくるのだけど、

ここはどこも牧草地で餌には困らない。

 

どこもご近所は門から家まで距離が

あるので、門には鍵がかかっていて、

おばあさんは山羊を捕まえにもいけない。

 

おばあさんのネットワークを使っても

フェンスの修理や山羊の捕獲のお手伝い

をする人もすぐには見つからないらしかった。

 

捕まえるお手伝いをしたいが、こちらも

通勤の途中、服装も羊飼い仕様ではないし。

あまりの落ち込みように手を握って慰める

と、涙をためて、神様が試練を与えている

などと言い出して

この世の終わりのような

暗い顔をして嘆き悲しむ。

 

月並みだが、生きていると色々あるけれど、

何とかなるよ、早く事態がよくなるといいね

と言葉をかけると、

 

きっと顔をあげて、

「そう、私が事態を良くするの、

このまま泣いているだけじゃだめ、

そうやって私は1975年から

道を切り拓いてきたのだもの!」

 

予想外の返事はおばあさんらしかった。

 

1時間後、お散歩の終わりにある

カフェの前を通りがかると、

誰かが大きな声で呼ぶ。

 

さっきまで泣いていたおばあさんが

お友達とコーヒーを飲んでいた。

山羊は無事家に連れて帰ることが

出来たと言って、けろっとしていた。

 

喜ぶのも泣くのも毒舌もどこまでも

パワフルなおばあさん。今86歳

だというので、40歳近い1975年の

時に何があったのか、機会があれば

聞いてみよう。