鈴木清涜「燔祭」/マルカフェ文藝部 季刊誌「棕櫚shuro」第二号 | ●Malu Cafe●

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「燔祭(はんさい)」
とは、生き身をやきつくし神にささげる儀式。好奇心に駆られてページを捲れば、のっけから打ちのめされること必至。逃れられない血の定めは、穢れか、誇りか……おぞましささえ覚えるほど愛ほとばしる物語。


モデルとなる、クラウス・キンスキーについて、その作品から読み解くコラム「原初光景―ヘルツォークの視点」を併せて読むことをお勧めします。こちらのコラムも同号収録!映画ファンならずも必読です。

「燔祭」は俳優クラウス・キンスキーのスキャンダルを元にした創作ではあるが、本作品に登場する、キリルの殺害を企てて失敗した映画監督ヘルマンは、ヴェルナー・ヘルツォークそのままの実像である。こう書くとヘルツォークがキンスキー以上に危険な男であり、今でも最前線で現役の監督として活躍していることに眉をひそめる印象を与えがちだが、実際その通りだとしても、狂気を存在感で常に放射し続けたキンスキーと違って、カメラの向こうに自らの視線を展開させ続ける点で実に内包的である。
 ヘルツォークは「誰もが行ったことのないところに行けるのならいつでも準備は出来ている」と言う。その貪欲な視線は、公私ともに放浪性を感じさせる。若い頃ユーゴスラビアとギリシャをさまよったというエピソード、数々の映画作品のなかでも撮影監督のトーマス・マオホのカメラを通して幻想的なまでに雄大に語られる(鈴木清涜「原初光景―ヘルツォークの視点」冒頭より転載)


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鈴木清涜 「燔祭」


 気がつくと腹の下に娘がいた。長女のパウラだ。右側でグッタリしているのが次女のナタリア。左側でうつ伏せになって失神しているのが三番目の子にして長男のニコラス。三人の子供を相手にキリルは性欲を満たしているところだった。パウラと視線が合い、その視線が投げかける感情を目のなかで受け止め、突き刺すような憎悪を愉悦に変え、キリルの唇を残忍な笑みに歪めていた。「死んじまえ」とパウラ。「死んじまえ!」しかし次に同じ言葉を叫んだ時は、キリルのペニスの深い侵入にとろけた語尾になっていた。それからパウラの尻を両手でわしづかみにし、自分の股間に引き寄せて、ペニスをさらに奥深く突き入れると、尻に爪が食い込むほどきつく抱きしめて激しく抜き差しを繰り返した。パウラの長い絶叫が響き渡り、キリルはその響きに幸せそうに目を閉じ、自分の娘の子宮に向かって長い射精を放った。

 キリルが子供たちを犯すのは、自分の子供たちが相手だと勃起の仕方が違うからである。かつて妻だった女たち、映画で共演する女たち、路上の春を売る女たち、いずれもキリルの性欲を完全には満たすことが出来なかった。自分が俳優になるずっと前、まだ女を知らない身体だった少年のキリルの心に宿っていたのは、抑えきれないくらいの加虐への渇望だった。誰でもいい、何でもいい、とにかくめちゃくちゃにしたい。ただそれのみの欲求であった。それで虫や蛙をバラバラに八つ裂きにすることをよくやっていた。当時はポーランドそのものがバラバラに八つ裂きにされた格好で、共産主義として再生しつつも、キリルを含めた国民全体が飢えていた。だから食べられる生き物は公然とバラバラにすることが出来た。しかし、空腹が満たされても、加虐への渇望がやまないことを知ったキリルは、本能が誘うままに、森林で香草を摘み取っていた少女を襲って強姦した。少女は草のなかで大の字になったまま呆然としていた。目からは涙、鼻からは鼻水、口からは涎、そして膣口からは赤い血が混じった精液を流していた。犯している間はほんのちょっと忘れていられたが、射精して我に返るとあっという間に心のなかがどす黒く染まって、少女をバラバラにしたい衝動に襲われた。キリルが殺人を犯すところまでいかなかったのは、単に破滅願望がなかったからである。生命の続くあいだ、出来る限り心の渇きをいやし続けようと考えたためである。キリルのペニスが処女たちの鮮血で染まり、赤黒く変色する頃、キリルはポーランド出身の映画俳優になっていた。

 キリルは決して美男子ではなかった。残忍なヘビのような、強烈な印象を漂わせるこわもてであったが、女優を含めた女たちはキリルの凶暴なペニスのもとにひれ伏した。最初の妻はセットの裏で大道具の放つペンキの臭いのなかで貫かれて以来、貪欲にキリルを求めてパウラを出産した。初めてのわが子、長女の顔を病院で見た瞬間、キリルは鮮烈な、それでいて異様な痙攣にとらわれた。今まで全く知らなかった欲望がキリルのなかで鎌首をもたげてシュッシュッと舌を突き出して這い出てきたのだ。この子が育ったら犯そう。興奮する。自分の子供だからこそ興奮する。おれに目つきがそっくりなわが娘の子宮におれのペニスを突き立てることを考えるだけで、おれはこんなにも破裂するかのように勃起する……


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