勉強代 | 同居嫁のため息

同居嫁のため息

久しぶりに帰って来ましたぁ! 実録、「渡る世間…」。

「お金貸して」友人に頼まれたらどうする? ブログネタ:「お金貸して」友人に頼まれたらどうする? 参加中


ワタクシの父はよく言っておりました。
「人にお金を貸す時には、やった(あげた)と思いなさい」と…。
借りる方にも責任はあるが、貸す方にも責任がある。

そんなコトバを痛恨の想いで思い出したコトがこれまでに2度ばかりある。
学生時代のハナシであるが、そのひとつを紹介します。

その日もアルバイト先で夕食を済ませてからCharing Cross駅へ向かった。
高架下にあるクラブで、友人と待ち合わせしていたからだった。

そこはちょっと異質空間で、同性愛者が多く集う…そんな場所だった。
ノン気の私には、性別は男性だが女性の心を持つ親友がいた。

カノジョには好きな人がいた。
そのお目当てのカレが来ている曜日には必ず、私たちはそこへと通った。

カレは短い金髪で緑色と蒼色が混ざった冷酷そうな瞳をした青年だった。
そんなカレを見つけると普段より1オクターブくらい高い声を出してカノジョはカレに手を振った。

そっけない態度で接するカレにどうして、
そこまですり寄って行くのか私にはまったく理解できなかった。
それを理解するには私は未だ恋愛というモノを理解していなかったのだ。

同性愛者でもなければ、憧れていたワケでもない私が
わりと率先して、カノジョとそこへ通うには理由があった。

そこに集う大抵の人々は、
これまでワタクシが出会うことなかった頭の回転が早く
会話がすこぶる上手…そんな魅力をもっていた。

何より、本気になったらワタクシよりも腕っ節の強い男性たちがいたとしてても
彼らが女性には興味を示さない…そこが、たまらなく気楽でいいのだ。

私はある日、そこでミツヒロという2歳年上の日本人の青年に出会った。
ミツヒロは語学留学をしていて、BAKER STREETに住んでいるのだと私に言った。
どうやら、ミツヒロはバイセクシャルらしく、
私の中にある防犯センサーは彼と接触することを良しとはしなかった。

週を重ねるうちに、ミツヒロは私たちにとって顔なじみになっていて、
私の中でもミツヒロは、そう危険な人物でもない
同じ日本人同士…たまに日本語で話せる遊び仲間のひとりであった。

そんなミツヒロがある日、100ポンドを貸して欲しいと言い出した。
今のレートなら1万4,000円といったところだが、その当時1ポンドは290円前後。
そう、当時の日本円に換算すると約3万円弱だった。

仕送りまで7日もあるのに、ポケットには10ポンドしかないと彼は言った。
今の私であれば、10ポンドしか持っていないのに、クラブに来ている矛盾に気づいたことであろう。
しかし、その時の私には、「貸したモノを返さない」そんな人が存在することすら知らなかったのだ。

翌日、アルバイトが終わると、私はミツヒロと約束した待ち合わせ場所のBURGER KINGへ向かった。
まずはレジに向かい、飲みもしないホットティをオーダーして受け取り、2階へと向かった。

階段のそばにいるガードマンが「ヘイ!」と声をかけるので
「キチンと買ったよ。ホラね」と右手に持ったカップを彼の目の前に差し出した。
ちなみに、この店で1番安いのはホットティーである。

この店では、まずは何か購入しなければ、座席には行けないのだ。
買い物しないヤツにトイレは貸せない。
そんなトコロが理由なのだろう。
さすが、公衆トイレも有料な国だけあるもんだ。

2階にあがると、約束どおりミツヒロは食事をしながら、私を待っていた。

私:「待った?」
ホットティーをテーブルに置き
ミツヒトの向かい側に座ると私はボンサックの中から、お財布を取り出し、
ATMでおろしたばかりの50ポンド札を2枚ミツヒロに手渡した。

私のお財布の中に、10ポンド札が3枚と小銭が少しだけ残った。

ミツヒロ:「悪い!本当に助かるよ。仕送りが入ったら、電話するから」
そう言うと、受け取った紙幣を彼はポケットから取り出したお財布にしまい込んで、
こんどは革のジャケットの右ポケットにしまい込み、コーラを飲み込んだ。

私:「うん、分かった。悪いケド、この後用事があるから…私帰るわ。」
ミツヒロ:「え?まだ口もつけてないじゃん」

そう言って、ティーバッグが浸かったままの濃いめのブラックティーを指さした。

私:「うん、いらない。ココってさ、タダじゃ入れないって知ってた?」
ミツヒロ:「え?マジで、そうなの??そんなの聞いたことないよ」
私:「いいお客さんってコトじゃないの?私、何回か ”後で買うから、先にトイレを!!”ってバトったケド、あの人、ぜんぜん融通きかないんだよね。そんなワケで、コレあげるから。濃い目の紅茶!」

じゃぁね!と私は右手を顔の横まで持ち上げて、外へと出た…。


それから、電話は10日間を過ぎても鳴らなかった…。
例のクラブに行っても、「ミツヒロは来ているらしい」という知らせは聞いても実際に顔を合わすことコトはなかった。

ひと月経っても状況は変わらず、私は痺れを切らしてミツヒロのホームステイ先に電話をしてみた。
ステイ先に電話をすると、「Hello…」とミツヒロとそっくりな声の人物が電話に出た。

私:「あ、ミツヒロ?元気にしてた?」
そう言う私にそっくりな声の持ち主はこう言った。

ミツヒロ:「あ、オレぇ、ミツノリっていうんけどぉ、兄がいつもお世話になってます。」
私:「ちょっ、バレバレなんですけど(笑)」
ミツヒロ:「い、いや、マジでオレ、ミツノリっよ。オレ、日本から遊びに来てるんけど、兄なら事故に遭って、今入院してるんよ」

ハァ?アンタ、ミツヒロじゃん!!

っつーか、何?その三文芝居!?

私:「いや、マジで。返せないって言うなら、慌てなくっていいよ」
ミツヒロ:「何のハナシっか?オレ、忙しいんで」

ツー、ツー、ツー

電話が切れてしまった( ̄□ ̄;)!!
ナニ?コレ?ナンナノ?イッタイ????

ワケが分からず、もう1度電話してみた…。

ミツヒロ:「Hello…」

つーか、出てるし( ̄Д ̄;;

私:「もうさ、冗談キツ…」
そう言いかける私をさえぎるように

ミツヒロ:「なんのハナシっか、さっきから言ってるんけど、オレ弟のミツナリっよ。」

私:「え?なんてお名前なの?お、おとうとさん?」
ミツヒロ:「ミツナリっスよ」
私:「ハァ?ミツリってナニよ。アンタさっき、ミツリって言ってたわよ」
ミツヒロ:「いや、言ってないっス。ジブンはミツノリっス!」

あちゃー!
もう、ボロ出てますよぉ!(爆笑)

私:「だからさぁ、もういいよ。返さなくていいよ。100ポンド。その代わり、私のテリトリーに2度と入り込まないでくれればいいから…。」

もう、既に猿芝居もできない様子のミツヒロは黙り込んでしまった。

私:「そういうワケだから、私はあなたのカノジョでもなんでもない。トモダチって程でもない。ただ、異国で同じ日本人が困ってるんだったらって、それだけで貸したんだけど…。残念だわ。でも、勉強代だと思うことにするわ。ありがと。元気でね」

そう言って受話器を置いた。
受話器を置くと、今自分に置きたこの奇妙な出来事が可笑しくて笑いが止まらなかった。
笑いすぎてお腹が痛くなって、お腹が痛くて、今度は涙が出て来た。

そこには恋愛感情も何もない、友情も何もない。
ただ、純粋に同じ国からはるばるやってきた人が目の前で困っていると助けを求めてきた。
だから、迷わず手を差し出すことを選んだ。何の疑いもなくそうしたのだ。

泣き笑いの中、父親が言ったコトバが頭の中に浮かんだ。


人にお金を貸す時には、やった(あげた)と思いなさい。
そうすれば、返ってこなくても腹がたたない。



この後、1度だけ女性の同僚に貸したお金が返ってこないことがあった。
それ以来、よっぽどの長い付き合いがない限り5,000円までしか貸さないコトに決めている。



All About 「お金を返す・借金の整理」友人が借金で困ったと告白!どう接する?
All About 「よくわかる法律・裁判」貸したお金が返ってこない!どうすればいい?