元時津風親方の退職金問題
大相撲の力士暴行死事件で傷害致死罪に問われ、1審名古屋地裁で懲役6年を言い渡された前時津風親方の山本順一被告=控訴=が、07年10月に解雇された日本相撲協会に対し、退職金を請求した件で、同協会が返答を保留している問題について、一部報道では、「退職金を請求するなどけしからん」と批判されています。批判は、批判としても、不支給とすることはそう簡単ではありません。
そもそも退職金って何でしょうか。
退職金は、支払条件が明確であれば、労働基準法第11条の「労働の対償」としての賃金に該当し、退職金請求権は法的な保護を受けることになります。その法的性格は、賃金後払い的性格、功労報償的性格、生活保障的性格を併せ持つものと解釈されています。
例えば、退職後、競業関係にあるような同業他社に就職した場合や、懲戒解雇に処せられた場合に、退職金の減額や不支給とする取扱いをするという就業規則は一般的ですし、その内容が合理的である限り有効とされています。この取扱いは、退職金が功労報償的な性格を有することを意味しており、退職時に使用者が勤務の再評価を行う趣旨である解されます。
一方、退職金が賃金の後払い的性格と評価された場合は問題となります。勤続年数、退職時の役職等によって支払額があらかじめ定められている場合は、後払い的性格が強くなります。仮に退職金の減額や不支給の規程を根拠にしたとしても、特に不支給については簡単にできないと解されています。
まず、相撲協会の規程がどうなっていたかを見る必要があります。報道によれば、除名処分には不支給とする規定はあるが、解雇にはその規定がないようです。すなわち、解雇処分と退職金不支給が連動していない以上、協会は規定に従って支給する義務があることになります。世論は納得しないでしょうが仕方ないですね。協会としては民事裁判を起して、不法行為による損害賠償を請求することが可能性としては残ります。
退職金問題は、08年8月に大麻所持容疑で逮捕され、解雇となった元若ノ鵬からの請求で批判されていました。元若ノ鵬には結局、規定に従って支払われたのです。一方、大麻所持容疑で09年1月末に逮捕され、解雇された元若麒麟は受け取りを辞退したそうです。相撲協会は、財団法人の規則にあたる寄付行為を2月に一部改正し、解雇処分された親方、力士は理事会の決議によって退職金などを支給しないか、減額できる規定を新設したそうです。
前時津風親方の解雇が、仮に、この規程の効力が及ぶ2009年2月以降だったとしたら、結論は変わっていたでしょう。
採用コンサルタント・社会保険労務士 田中謙二