光翳りし時 その12 | 百火繚乱

百火繚乱

特撮大好きです。変身する前も後も、変身した中の人も、声の人も好きです。
ゴーカイジャー、シンケンジャー、仮面ライダー中心かな。
シンケンジャーの小説、殿様で恋愛小説も書いてます。

栞は夢の中で、森を彷徨っていた。
薄く靄がかかった緑の森を、ずっと歩き続けている。
遙か遠くで水の流れる音がして、その音だけを頼りに歩き続けた。
とても穏やかな気分だった。
何もかも全て忘れて、とても穏やかな。
なのに時々振り返る。誰かが呼んでいる気がして。
遠くに聞こえていた水の音も、だんだん近くなって、ようやく森の向こうに大きな川が見えた。
靄はかかっているけれど、緑の木々が、河原近くまで囲んでいるとても美しい川。

-三途の川。
外道衆がいる赤い川にも繋がっている。
外道衆が住むのは、この川の下流。
ここは人があの世へ向かう時に渡る場所-

栞は不思議だった。どうしてそんな事を知っているのだろう。と。
川岸に沿って歩く。向こうへ渡れば、もっと静かな場所へ行ける。
でも、どこまで行っても渡ることができず、暗い森の近くまで来てしまった。
その先は、外道衆の住む賽の河原。
また戻り始めた時、栞の足が勝手に止まった。
誰かが自分を呼んでいる気がして、今来た道を戻っていく。
確かに誰かが自分を呼んでいて、はっきりと声が聞こえる。

声は、暗い森の方からしていた。呼ぶ人影も見えるけど、顔はよく見えない。
「こっちに来い」
栞を呼ぶ声。
でもその先は怖い森。行きたくなくて首を振る。
このままここにいたかった。
でも、声が呼ぶ。
顔は見えないけれど、栞はその声を知っていた。
森を彷徨っていた時から、ずっと聞こえていた、とても悲しそうに栞を呼ぶ声。
手を伸ばせとその声が言う。

忘れたはずの記憶が蘇る。

そう、この声を知っている。とても愛しい、大切な、大切な-

「俺を一人にするな。・・・・・」

途切れてしまったけれど、確かに聞こえた最後の言葉に、栞は手を伸ばし、勇気を出して暗い森に入った。


「丈ちゃん!」
源太の声に丈瑠が顔を上げると、栞の寝顔が僅かに歪んでいる。
「栞?」
栞が苦しそうな表情になる。
「栞っ」
丈瑠が栞の肩を掴もうとして、彦間に止められる。
まだ、動かせる状態ではない。
皆の見守る中、栞の目がゆっくり開いた。
「栞」
「栞ちゃん」
「おお、栞殿」
彦間は、医師を呼ぶため慌てて部屋を出て行く。
栞は焦点の定まらない瞳で、ぼんやりと天井を見ていた。
「栞」
丈瑠の呼びかけに、ゆっくり丈瑠に目を向けて、焦点が合う。
「・・・丈瑠様、ご無事でしたか」
先ほどまでの記憶はないのか、静かに笑う。
こんな状態でさえ、丈瑠のみを案ずる栞に丈瑠が唇を噛んだ。
栞が体を動かそうとして、顔をしかめた。
「まだ動くのは無理だ」
栞が、自分の状況を理解して、何があったか思い出す。
「お屋敷は?・・・薫様は?」
「大丈夫だ。母上も、屋敷も無事だ。お前が守った」
「嶺、達は?」
「皆無事だ」
「・・皆さんも?」
栞の視線が、源太と茉子に移る。
「ああ、あれしきの戦いで、誰も怪我などしない。お前だけだ」
栞の顔にようやく安堵の色が浮かぶ。
茉子が、源太を促して部屋を出た。
「ここは、丈瑠様のお屋敷?」
見慣れた天井を見上げる。
「お前の家だ」
「私の家?」
「ああ、帰ってきたんだ」
丈瑠の家ではなく、栞の家だと言ってくれる丈瑠に、栞が嬉しそうに小さく笑う。
栞が天井からまた丈瑠に目を戻す。
「ずっとそばにいてくれたの?」
すぐ近くに、ずっと丈瑠を感じていた。
栞が動かせる右手をそっと伸ばして、丈瑠がその手を握った。
丈瑠をじっと見つめる。
「約束・・・」
戻ったら、抱きしめると。
「無理だ。傷が開く」
「でも・・」
抱きしめて欲しい。今すぐ
栞が瞳で訴える。
丈瑠が一瞬迷ってから、ゆっくり近付いて、隣に横になる。
そっとそっと、動かさない様、ただ身体を寄り添わせる。
栞が右手を丈瑠の背中に回した。
「お帰りなさい、丈瑠様」
「・・・お前がだ」
怒った様に言う丈瑠に、少し笑って、丈瑠の温もりを全身で感じる。
そっと唇が触れて、丈瑠が体を起こした。
「医師が来る。皆も心配していた」
顔を見られない様逸らしたまま、丈瑠は部屋を出ていった。







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