茉子は部屋に乗り込みたいのを我慢して、縁側でしばらく待つと、丈瑠が部屋の方からやって来た。
「ちょっといい?」
「何だ」
丈瑠は横を向いたまま聞く。
「聞いたんでしょ。栞ちゃんの推測。どういうつもりよ。さっさと祝言挙げて、子供作ればいいじゃない、それですむ話でしょ」
「そんな簡単な事じゃない」
「簡単じゃない。・・・栞ちゃん、志葉の家に生まれた以上、全てを受け入れるって。それが自分の運命だからって」
丈瑠が少しだけ視線を投げた。
「言わせたのは丈瑠よ。・・・前にここで余計なことするなって言ったよね、あの時は確かに栞ちゃん子供だった。でも今は違う。彦間さんも認めてるし、何の障害もない。踏み込まない理由は何?」
丈瑠は答えない。
「またどうでもいい余計な事考えてるんでしょ」
責め立てる茉子に丈瑠が顔をしかめた。
「どうでもいい事じゃない」
「じゃあ何よ」
丈瑠が小さく息を付く。
「あれで終わったと思うか」
丈瑠が問い、茉子が首を傾げた。
「何の話?」
「・・・あの敵は、必ずまた現れる」
丈瑠の言葉に、茉子も思い当たる。
「ザンギャック?」
「初めて攻める相手に、全てを懸けてくると思うか?俺ならそんな事はしない」
確かにそうだ。地球を征服に来た、あの艦隊が全てとは限らない。多分先遣隊か別働隊。本体は宇宙の彼方に今も存在していると考えた方が妥当だ。
そして一度征服に失敗した以上、必ずまたやって来る。もっと強い力で。
「多分それほど時間は残されていない。外道衆もまた現れる」
「だから何?だから栞ちゃんを突き放したの?そんな事言ってたらきりがない。敵は倒してもまた次から次に現れる。・・・そんないつ来るか分からない敵。来たって、また勝って生き残ればいい。私たちはそうやってきたじゃない」
「俺は、守るもののために負けない。それでも・・・」
「栞ちゃんが残される事が心配?栞ちゃんだって侍だよ。そんな覚悟丈瑠といるって決めた時からしてる」
丈瑠が拳を握りしめた。
確かに栞は覚悟をしていた。共に死ぬ覚悟を。それを知った時、栞に好きな事を見付けさせて、例え丈瑠がいなくなっても生きていく希望を持たせてやれればそれでいいと思っていた。それでも丈瑠を望むなら、その時は命ある限り共にいようと。
でも、残される栞の、あんな酷い未来を突き付けられたら、もうそばにいる事はできない。
昨夜も栞は共に死にたいと言った。でも、きっとそうはしない。志葉のために生きるだろう。自分を殺して。
「・・・推測じゃない。事実だ」
丈瑠が小さく呟く。
「え?」
「この間、俺と母上が命を懸けていたら、栞はそうなっていた。それだけじゃない、志葉の当主まで」
茉子が少したじろぐ。
「栞の相手は俺でなくても構わない。俺じゃない誰かなら、栞に何があっても最後まで支えてやれる。それなら、初めから渡してやった方がいい」
苦しそうに続ける丈瑠に、茉子が一歩踏み出した。
「ふざけた事言わないで。栞ちゃんは物じゃない。丈瑠の事しか好きじゃないのに」
「今はそうでも、ずっとそうとは限らない」
「どうしてよ」
「・・・ようやく心から笑える様になったんだ。でもその時が来れば、栞はまた心を閉ざす。それが分かっていて、俺はその時、そばにいてやれないんだ」
顔を背ける丈瑠に、茉子が少し優しく言う。
「・・・ほんと、丈瑠って、面倒臭くて嫌になる。・・分からないの?栞ちゃんが心を開いたのも、あんなに幸せそうに笑うのも、全部丈瑠が隣にいるからでしょ。一緒にいられるのにそばにいないんじゃ同じじゃない。・・・そんな日が来ないなんて楽観的な事、私だって思ってない。でも、それを恐れて手放したら、栞ちゃんの笑顔は守ってあげられないよ。それに、栞ちゃんが誰を選ぶかなんて、決めるのは丈瑠じゃない」
動かない丈瑠に、茉子の声がまた強くなる。
「分かったらさっさと行く。もう二度と、あんな顔をした栞ちゃんを一人にしたりしないこと」
それでも、しばらくその場に留まっていた丈瑠が、足早に歩き出す。
茉子は呆れた顔でその背中を見送ってから、そっと涙を拭いた。
ザンギャック、また来るけど、海賊さん達がやっつけてくれるし。なんて思ってはいけません。
丈瑠達は、戦う力を失った身で、それでも命がけで戦おうとしている訳で。
そんなテンションで読んで頂けるとうれしいです。