黒子が到着して、丈瑠は屋敷へ運ばれ、心配そうに待っていた彦間が、すぐに奥へ運ぶ様指示する。
「申し訳ありません、彦間さん」
後を付いてきた栞が、彦間に頭を下げる。
「栞殿」
「丈瑠様は、私を庇って怪我をしたのです」
今にも泣きそうな顔で訴える栞に、彦間が首を振った。
「いえ栞殿。それは当然の事。ご自分をお責めにならぬ様。それより、殿の所へ」
二人で丈瑠の部屋へ向かい、既に着替えさせられ、横になった丈瑠の傷口を診る。
「川の水で?」
「はい。外道衆の毒なら、この世の水で消えるかと」
彦間が、感心した様に頷く。
「さすがによくご存知で。処置が早かったので、もう、ほとんど毒は抜けております。今夜一晩休めば、体に回った毒も抜けるでしょう」
栞が少しほっとした顔をする。
「丈瑠様のそばについていてはいけませんか?」
懇願する様に言う栞に、彦間が頷く。
「どうせ部屋へ戻られても、休めぬでしょう。今夜はこちらへ」
頷いて、丈瑠のそばへ寄ろうとした栞を、彦間が制する。
「その前に、お着替えを」
そう言われて、初めて自分の姿を見下ろす。川へ入ったせいで泥だらけで、所々服も破れている。栞が素直に頷いて、部屋を出て行った。
大して時間も掛からず、着替えを済ませた栞が戻ってきた。心配で仕方がないのだろうと、その辺の気持ちは彦間にも分かるので、何も言わない。
「では、栞殿、後はお任せします。薬草を飲ませましたので、朝まで眠るかと。何かありましたら、すぐにお呼びください」
彦間と、黒子も出て行く。
栞は静かに眠っている丈瑠に向き直った。苦しくても、丈瑠は決して声を上げたりはしない。毒のせいで熱が上がり、栞は、絞ったタオルで丈瑠の額の汗を拭いた。
「泣くな」
眠っていると思った丈瑠に、声を掛けられて、栞は自分が泣いている事に気付く。
「痛いなら痛いと言って。苦しいなら苦しいと」
丈瑠の手が、栞の頬に触れて、栞がその手を両手で握る。
「大丈夫だから、泣くな。泣くと、追い出すぞ」
栞が泣きながら頷いて、涙を拭う。
「泣かないから、ここにいさせて」
丈瑠が少し笑って、また瞼を閉じた。
栞は、泣かない様に自分を叱咤しながら、一晩中、時折苦しそうに顔をしかめる丈瑠を看ていた。
明け方ようやく丈瑠の熱が下がり、栞がほっとして、ついうとうとしてしまう。