「御当主、此度、私のした事許されぬと分かっております」
丈瑠に手を付いて深々と頭を下げる。
「榊様、もうすんだ事です、お手をお上げくだされ」
彦間が言う。
「・・・もういい」
丈瑠も小さく言って、榊がようやく頭を上げる。そして、
「どうか栞をよろしくお願いいたします」
そう言うと、また頭を下げた。
丈瑠が頷き、榊は栞に向き直った。
「丹波に聞いた。私が処分されないよう懇願したと」
栞が小さく首を振る。
「お前をあそこから遠ざけようとしていたが、これがお前の運命かもしれないな。幸せになれ」
「・・・お父様」
栞が俯いて唇を噛んだ。榊は丈瑠に向き直り、深々と頭を下げて去っていき、栞はその後ろ姿をずっと見送っていた。
「帰るぞ」
俯いてしまった栞の頭に、軽く手を乗せて、三人は屋敷を後にした。
「でも栞、お前は何故当主にこだわった。何もしなければお前はそのまま屋敷に残れただろ」
屋敷に帰りながら、丈瑠が聞く。
「経済支援と引き替えの立場など嫌です。私は丈瑠様が私に対して、引け目も何も感じない立場で屋敷にいたかったのです」
「そのために、こんな事をしたのか?」
栞が頷いて、丈瑠が呆れたように栞を見る。
「お前の会社から金を貰うんだったら、そう変わらないだろう?」
丈瑠に言われて、それもそうだと思い当たり、少し考える仕草をする。
「でしたら、丈瑠様が経営してください」
栞が、いい事を思い付いたように顔を上げた。
「俺が?」
「はい。丈瑠様なら大丈夫です。経営学を少し学べば。会社で実践で覚えますか?それとも、大学に行きますか?」
「それはいいお考えでございますなあ」
彦間が声を上げる。
「ジイ」
「殿、殿はまだお若い。人生は長いですぞ。いつ出るか分からぬアヤカシを屋敷でずっと待っているより、ちゃんと社会人になった方が」
「しかし俺は・・・」
「大丈夫です。経営者なら、アヤカシが出たら、いくらでも休めますし」
そういう問題か?と丈瑠が眉間に皺を寄せる。
「私も手伝えます。彦間殿どうでしょう?」
「もちろん大賛成です。早速調べてみましょう」
彦間もすっかり乗り気で、丈瑠の言うことなど聞いていない。
栞が彦間と先を歩きながら、楽しそうに話している。
あんなに明日の来ることを悲しんでいた栞が、未来のことを嬉しそうに話すのを見て、丈瑠は小さく笑うと、黙って二人に付いていった。
丈瑠と姫の粋な計らいで、屋敷へ留まる事の出来た栞。泣いていた事も忘れて、笑顔の戻った栞を優しく見つめる丈瑠。この先二人の行く末は。殿様御家騒動恋模様、第十六幕、第十七幕へと続きます。