約束の夏祭りの日の夕方、源太が屋敷へやってきた。
「お、栞ちゃん、今日の浴衣も可愛いねえ」
栞は、先日とは違う紺地の浴衣だ。
「丈ちゃんも浴衣か」
「源太さんのも用意しました」
栞が源太のために用意した浴衣を差し出す。
「俺の?嬉しいねえ、早速着替えてくるわ。でも、一人で着れっかなぁ」
「お手伝いしましょうか?」
栞の申し出に、丈瑠が一瞬眉をひそめて黒子に視線を投げ、見られた黒子が心得たとばかりに、あっという間に源太を別室へ連れて行った。
「黒子に任せておけばいい」
それを唖然として見送る栞に、目を合わせないまま丈瑠が言って、栞は小さく首を傾げた。
そして、夏祭り。
浴衣を着せてもらった源太と丈瑠と栞。彦間も付いてくる。
「結構な人手ですなあ」
行き交うのも困難なくらいの人出に、彦間が声を上げる。
「はぐれるなよ」
腕を差し出しながら丈瑠に小さく言われ、栞が頷いて袖をそっとつまんだ。
「源太は?」
気が付くと源太がいない。
「全く、源太の奴・・」
彦間の小言が始まりそうになった時、戻ってきた。
どうやってこの短い間に買ったのか、頭にはお面、手には綿アメとたこ焼きを持っている。
「やっぱ祭りはこれだよな。栞ちゃん、食うかい?」
綿アメを渡されて、栞が驚いた顔で、でも断る事も出来ずに受け取る。
「こら源太。栞殿は、歩きながら物は食わぬ」
彦間に叱られて、源太がふて腐れる。
「えー、美味いよー。せっかく祭りにきたんだから、食ってみ」
栞が、ものすごく困った顔になり、綿アメを、少しだけ千切って口に入れた。
「おいしいです」
お世辞にも取れそうな笑顔で、そうだろそうだろと頷いている源太に答えてから、今度は、少し大きく千切る。
それは食べずに、丈瑠に差し出されて、丈瑠が一瞬顔をしかめてから、口に入れた。
「全部俺に食わせる気なら断るぞ」
丈瑠が栞を睨み、栞は小さく唇を尖らせてから、付いてきている黒子を呼んで渡す。あくまでも、自分で食べる気はないようだ。
「殿、栞殿、何か欲しい物はございませぬか?ジイが何でも買ってあげますぞ」
彦間にしても、丈瑠と夏祭りに来るのは、子供の時以来で、とても嬉しそうだ。
「何か、じいちゃん、ほんとにじいちゃんみたいだな」
冷やかす源太に、構わずゲンコツが飛んできた。源太が、いってーと頭を押さえる。
「何が欲しい?」
そんな二人は放って置いて、丈瑠が小さく訊く。
「・・・金魚」
栞がためらいがちに答える。
「どこで飼う気だ?」
「お庭の睡蓮鉢でもいいし、お部屋に金魚鉢を置いても楽しいです」
にっこり笑って言われると、返事に困る。
「ジイに相談しろ」
「構いませんぞ。何なら殿のお部屋に置いてはいかがです」
「俺は世話はしないからな」
「世話は栞殿にお任せすればよいではないですか。それなら毎日お部屋へ伺えます」
冷やかされているのに気が付いて、丈瑠が思い切り舌打ちをした。
短編なのに、終わらなかった。あと2回続くかな。
桃李くんは、金魚じゃなくて、食べ物って言ってたけど、丈瑠は、こんな感じかな。と。