第十七幕 真実姿(ほんとうのすがた)
全ての決着が付き、殿様丈瑠は殿様のまま、そして栞は、許嫁は解消されたものの、屋敷に残る事となりました。
屋敷では、何やら見覚えのないご婦人が三人を待ちかまえております。このお方こそ、栞を育てたハナさんその人であります。
「ハナ」
屋敷で出迎えたハナに栞が声を上げて抱きつき、ハナは、よしよしと栞の背中を撫でてやる。
「どうしたの?」
栞には答えず、まず丈瑠と彦間に挨拶をして、それから栞に向き直った。
「どうしたもこうしたも、義息子にお嬢様が榊の家から絶縁されたと聞いて、生きた心地はしませんでしたよ。早速屋敷に連絡したら、奥様がお嬢様の荷物を処分すると騒いでると聞きまして、急いでこちらに運んだのですよ。お嬢様は夏物しか持ってきてなかったでしょう。しかも和服ばかり。これから寒くなったらどうするおつもりだったのですか」
夏だけしかいるつもりはなかったから。とは言えず、栞はただ笑う。
「お嬢様のお部屋に全部運んであります。こちらの黒子さんが手伝ってくれましたので、大分楽でした」
「ありがとう、ハナ。お前にまで会えるなんて。今日はきっと人生で一番よい日です」
「大げさですよ、お嬢様」
「ささ、立ち話も何です。中へどうぞ」
彦間がハナを座敷へ通し、ハナは改めて丈瑠に向き直った。
「このお方がお嬢様がご執心のお殿様ですか。まあ、写真よりずっと男前ですねえ」
ハナは、栞がずっと丈瑠の事を気に掛けるのを、丈瑠が好きだからだと思っていた。もしかしたら、栞が気付くずっと前から、栞の気持ちに気付いていたのかもしれない。
「ハナっ」
栞が何を言い出すんだと驚き、彦間は声を上げて笑い、丈瑠は照れて横を向いた。
「まあ、申し訳ありません。お殿様にご無礼を」
余り申し訳なさそうに詫びる。かなり大っぴらな人柄のようだ。
「お嬢様はよく熱をお出しになりますが、私がいなくてどうされていたのですか?」
お茶を飲みながら、世間話の合間にハナに聞かれて、栞が答えに詰まる。
「お嬢様、また黙っておいででしたね?」
二人の驚いた顔を見て、ハナが栞を睨む。
「お嬢様は、私でもよく見ていないと気が付かないくらい上手にお隠しになる」
「私のは、一晩寝たら治るから」
栞が慌てて言う。
「では、栞殿、屋敷でも熱を?」
彦間が驚いたように声を上げて、栞が困った様に俯いた。
「栞殿、ちゃんと言ってくださらないと」
「ごめんなさい」
彦間に責められ、栞が素直に謝る。
「それに、お屋敷に来たから時代劇ごっこですか?お嬢様は、和服なんてほとんど着た事はなかったでしょう。言葉遣いもです。無理をされても、いつかは化けの皮が剥がれますよ」
ハナの爆弾発言に、栞が聞こえないという風に耳を押さえる。丈瑠と彦間は呆然とした顔をして、彦間が笑い出した。
「いやあ、今日ハナさんが来てくださり、助かりました。栞殿は、私たちが知らない事をいい事に、ずっと騙すおつもりだったようで」
栞が慌ててそんな事はないと首を振る。
「お嬢様のことなら何でもお聞きください。では、そろそろ失礼を」
ハナが暇乞いをして、栞に向き直る。
「ではお嬢様、お子ができたらいつでもハナをお呼びください。ここは、見たところ男所帯のようですので、すぐに飛んで参ります」
帰り際にハナが言って、丈瑠が飲もうとしたお茶をこぼしそうになる。
「ハナ」
栞は耳まで赤くなると、耐えられないと言う様に、顔を両手で押さえてしまった。
彦間はとても楽しそうだ。
そしてハナは、遊びに来るように言い置いて、嵐のように帰っていった。
「栞殿、もう無理ですぞ。全て露見しました故、明日からは着物も敬語もなしで」
彦間に言われて、栞がうなだれたまま頷いた。
「全くお前は」
丈瑠が栞を睨みながら言って、栞は泣き出しそうな顔で口を尖らせた。