第3幕の5 | 百火繚乱

百火繚乱

特撮大好きです。変身する前も後も、変身した中の人も、声の人も好きです。
ゴーカイジャー、シンケンジャー、仮面ライダー中心かな。
シンケンジャーの小説、殿様で恋愛小説も書いてます。

 翌朝、丈瑠が剣の稽古のため、庭に降りると、黒子に用意してもらった、白い胴着と黒い袴を着けて、栞がちょっと恥ずかしそうに庭へやってくる。
 彦間も来ていた。栞に剣の相手をさせる事を彦間に言った時の彦間の笑顔はかなりしゃくに障ったが、あの時悲しそうな顔をした栞に掛ける言葉を、他に思い付かなかった。
「やったことはあるのか?」
黒子から竹刀を受け取った栞に丈瑠が尋ねる。
「はい、少し」
振ってみるよう言われた栞は、相手に見立てた木に竹刀を振り下ろす。
 少しどころではない、かなりの腕だった。来た頃の千晶なら、簡単に負かせられるくらいの。
「少しじゃないだろ」
丈瑠が少し強く言い、栞がシュンとしたように俯いた。丈瑠は縁側で見ている彦間を睨む。
「ジイ、知っていたのか?」
彦間がはぐらかすように笑った。彦間が稽古の相手を薦めるはずだ。これなら充分相手になる。
「なぜ、剣ができる事を黙っていた?」
丈瑠に聞かれて栞が唇を噛む。
「・・・丈瑠様の稽古を見ている方が楽しかったので」
また嘘のすり替えだ。確かに栞は丈瑠の稽古をよく見に来ていた。けれどそれが理由ではないはず。
 丈瑠が小さくため息を吐くと、切り返しをするよう言って、竹刀を構える。身長差があるので、低く構えてくれる。
 切り返しを数回繰り返して、栞も勘が戻ったように、剣の切れがよくなってきた。
「一度合わせてみるか?」
栞がどの程度の腕か知りたくて、丈瑠は相手をさせる。

栞の剣は綺麗だった。流ノ介と同じように手本になりそうな型。そして、茉子のように舞うような剣だった。

茉子か、流ノ介程の腕だろう。
 一つにまとめている栞の長い髪が、栞が動くたび揺れ、丈瑠は、栞の様子を見ながら相手していたので、そこに隙ができた。普通なら、そこを突いて一本取られていたところなのに、栞はそこを突かなかった。結局丈瑠が栞の剣を弾いて、寸止めで額の上で止めた。栞は瞬きもせず、その剣先を見ていた。
「なぜ、隙を突かない?」
丈瑠が即座に聞いた。勝たせてもらったみたいで気持ちが悪かった。
 栞が困ったような顔をする。まるで隙に気付いていないような。
「ほう、さすがですな。剣ができる事は聞いておりましたが、これほどとは。流ノ介にも勝てそうですな」
縁側に戻ってきた二人に彦間が声を掛ける。二人は黒子からおしぼりを渡されて汗を拭いた。
 やはり知っていたのかと丈瑠が彦間を睨み、栞は困ったような顔をした。
「これなら充分殿のお相手も務まります。これからもご一緒に稽古をされてはいかがですかな、殿」
丈瑠が、彦間にちらっと視線を寄こしてから、「ああ」と短く返事をした。
 栞は少し困ったように、でも嬉しそうに頷いた。丈瑠の剣の稽古をしているのを見ているのが好きだった。一緒に稽古すれば、これまでより長く見られるから素直に嬉しかった。
 丈瑠が何だかんだ言いながら、栞をそばに置く事にしたらしいと頷いていた彦間が、栞の表情に気が付いた。
 また庭へ出ようとした丈瑠が、栞の髪に木の葉が付いている事に気付く。いつの間にか落ちた木の葉が付いたのだろう。
 次の瞬間、丈瑠の手がすっと栞に伸び、栞がびくっと肩をすくめて目を閉じた。
丈瑠の指が、微かに髪に触れて、栞の鼓動が驚くほど早くなり、瞬間で息苦しくなる。栞がおそるおそる目を開けた。
 丈瑠の指が、小さな木の葉をつまんでいるのが目に入る。そのまま視線を上げると、首を傾げている丈瑠の顔が見えた。
 髪に付いた木の葉を取ってくれただけだと、ようやく理解できて、それと同時に右手を差し出す。丈瑠が少し笑って、その葉を栞の手に置いた。
 丈瑠の指先が、ほんのわずか栞の掌をくすぐって、栞の心臓はまた大きく跳ねた。
 栞はその葉をしばらく見つめてから丈瑠を見上げた。
「あ、・・ありがとうございます」
頬を赤く染めて小さく言う。丈瑠は少し頷くと、また竹刀を持って庭に出た。
 栞は掌の木の葉を見つめてから、大切そうに握りしめた。まだ胸がドキドキしている。丈瑠に触れられた髪も、掌も、まだ丈瑠の感触が残っているみたいな気がする。
 栞は顔を上げて、また竹刀を振り始めた丈瑠を見つめた。
 栞の様子を見ていた彦間は、いままで栞も丈瑠と同じように、ただの許嫁として来ていると思っていたが、どうやらそうではないらしいと気が付いた。
 彦間は丈瑠も見る。丈瑠は栞の事を茉子やことはと同じようにしか見ていない。栞に対する態度も同じだ。
「黒子さんのお手伝いをしてきますので、先に上がって構いませんか?」
丈瑠を見つめていた栞が、彦間に声を掛け、彦間が頷いて栞と一緒に屋敷へ入る。
 彦間は小さく息を付いた。丈瑠は恋など知らないだろう。今まで戦いだけに明け暮れてきた。そうさせたのも彦間だ。戦いは終わった。もう少し人間らしい生き方を知って欲しかった。


 その日から丈瑠は、結局彦間の言うとおり、黒子と一緒でない時は栞をそばに置いていた。栞は剣やモヂカラの稽古、古文書の写しも一緒に熱心にやり、何でも器用にこなした。
 二人でいる時間が長くなればなるほど、二人が打ち解けるのも早かった。人見知りは丈瑠だけだと思っていたが、栞も初めに比べると、大分たくさん話し、よく笑うようになり、彦間は、そんな二人を微笑ましく見守っていた。 


 さて、大分仲良くなったこの二人、彦間の思惑通りうまくいくのかどうか。殿様御家騒動恋模様、第三幕、まずはこれまで。



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