134日
陽斗が天に還った当初、こんな日数も自分が生きていられるとは思えなかった。
耐えられない、一人にさせられない…でも両親や妹が…常に機会を伺ったり、泣き喚いたりの日々だった。
いや、今日はそんなことを書きたいのではない。
いつも夢は見ているのだが、久し振りにハッキリと覚えていられる夢を見せて貰った。
ありがとう、あきちゃん。
いつもの食卓の炬燵を床の間の方に動かし、その側で陽斗を抱えてる私。
大きくなった、最近の陽斗を、だ。
色々話してると、続き間である隣の部屋から母が急にキツい口調で
「あんた、今月はお金払ってくれるんだろね!?」
何で急に?
何でいきなり怒り口調で?
せっかく陽斗がいるのに?
と、私も応酬。
陽斗が心配げな顔で私を見つめる。
揉め事が激しくならないように、
「今やなくて良いやろ?分かったから。」
と、できる限りの柔らかい口調で母に言う。
まだ言いたそうだった母も察してくれたのか、不満げな顔ではあるけど引き下がってくれた。
「あきちゃん、一緒に寝よう。」
と布団を敷こうと押し入れを開けると、
「これで良い」
と、陽斗が布団を広げ始めた。
陽斗と寝てたダブルの布団を、今は半分に折って、陽斗が寝てた左側に私は寝ている。
その敷き方で陽斗がさっさと布団、毛布、掛け布団…と用意をしていく。
「あきちゃん、それじゃ狭いやろ?いつもみたいに、広く敷こうよ。」
と敷きパッドを出そうとする私に
「大丈夫って。」
と笑顔で敷き、さっさと布団に入ってしまった陽斗。
狭いなぁ、と苦笑いの私。
そこに陽斗の携帯が鳴る。
着信音、どんなんだったかな…
貝殻で作られたかのような、淡く柔らかい色調の携帯電話。
要るのかなぁ、携帯電話。
でも、携帯電話だと思った。
咄嗟に、帰って来いって内容だと感じ、布団に座る陽斗に耳を近付けた。
機械音のようで、何て言ってるか分からない言語だったけど『戻りなさい』って内容だと感じた。
しょんぼりと俯いた陽斗。
「あきちゃん?帰らなきゃなの?」
「…うん…」
「お母さんも一緒に行く!」
陽斗の右手を握り、部屋の窓から隣の家の屋根に向かい浮かぼうとするが、私が邪魔で上手く陽斗が浮かべない。
湿った柔らかく温かい、いつもの陽斗の手。
その右手が、しっかりと私の左手を握ってくれていることが凄く嬉しい。
一生懸命な陽斗。
必死な私。
何とか屋根によじ登るように浮かび上がり、迎えが来てるであろう方向に移動を試みる。
その方向に赤色灯のような、赤いクルクル光の反射が見えた。
私が足手まといになってる、と感じ、
「あきちゃん、お母さん大丈夫だから、先に行きなさい。お母さんも行くから。大丈夫だから。」
と、陽斗の手を離した。
どのタイミングからだかハッキリ覚えていないのだが、陽斗が泣いた。
声をあげて、陽斗が泣いた。
あぁ、辛いのは私だけじゃなくて、陽斗もなんだな…。
陽斗が泣くなら、私は泣けない。
泣かない。
陽斗が余計に悲しむから、陽斗が泣くなら私は陽斗を励ましなだめる。
陽斗の泣き声を聞きながら、屋根の陰で見えなくなった陽斗を追い、必死で屋根にしがみつきよじ登る。
登っていると、陽斗を迎えに来た方々の存在に気付く。
見えないのだけど分かる。
人ではない。
エジプトの壁画にあるような、人のようなアヌビスのような、ゴツい男性のような天使のような、そんな存在が二人居た。
私を押し戻そうと、屋根から降ろそうとしている。
「突き落とせば良いやん!落ちてしまえば、私は陽斗の所に行けて、望むところやわ!」
と喧嘩腰で、私達邪魔をする二人に文句を言う。
ふと、母達にも陽斗に会わせなきゃ、と声を出して呼んだ。
ここから目が覚め始め、自分の声が唸り声のように耳に聞こえる。
お母さん、と呼んでいるのに出てる声は、う゛あ゛あ゛あ゛というような声。
で、目が覚めた。
覚めたのに、瞬きをしても真っ暗。
豆電球がついてるのに、真っ暗。
忘れないうちに母に話そうと、お母さんと呼んだら明かりが見え、母のイビキも聞こえてきた。
夢の内容を反芻しながら、思い返す。
思い返してる間にも、ポロポロと思い出せなくなっていく。
曖昧になっていく、さっきまでの生々しい記憶。
サラサラ零れる砂のように、大切な陽斗との時間が思い出せなくなっていく。
時間を見ると2時09分だった。
目が覚めたら11時。
寝過ぎっぷりにビックリした。
鉢植えに話しかけたり、陽斗の部屋の窓を開けたりくらいしか体は動かさなかった。
父が庭木にミカンとバナナを突き刺してる。
そこに、メジロがやってくる。
ヒヨドリも来るが、父が養いたいのは、メジロ。
可愛い鳴き声をいつも聞かせてくれる。

2つ目のイチゴの花。
12月30日に、プランターのチューリップ第1号が目を出した。
今日までに3つの芽。
まだ先が赤い、芽。
寄せ植えの鉢も、2つともチューリップの芽が出てる。
チューリップ、あと1つまだ芽が出てない。
待ってるよ、頑張ってくれてありがとう。
夕方、弁護士事務所からTEL。
あぁ、そういえば、やらなきゃならないこと、まだ手付かずだ。
明日行くまでに、ちょっとでも手をつけよう。
頑張らせてしまった陽斗に、おやつもデザートも食べて貰う。
一緒に食べようね、あきちゃん。
タピオカも茹でなくちゃ。
仕事帰りにそのまま出掛けた妹が、やっと日が変わる前に帰ってきた。
陽斗にお土産を買ってきてくれてた。
明日朝、食べようね、あきちゃん。
妹にも夢の内容を話して聞かせた。
あきちゃん、夢で会えて、お母さん凄く嬉しいよ。
頑張ってくれたね、ありがとう。
水曜日だね…どうしても、あの日を思い出すよ。
防げなかったのか、って自分を責めるし悔しいよ。
陽斗が大好きなのに、お母さんは良いお母さんじゃなかったからね。
余計に悔やまれてしまうよ。
陽斗に悪くて、自分の足りなさが悲しい。
あきちゃん、ごめんね。
もっともっと、陽斗に優しくしてれば、陽斗は今も一緒に居てくれたのかな…。
居られるように、神様がしてくれたんじゃないかな…。
やっぱり、お母さんのせいじゃないかな?
大好きなあきちゃん。
大好きな、大好きなあきちゃん。
あきちゃんが居ない日々は、どんなに笑っても、やっぱり虚しさがあるんだよ。
誰かにいっぱい感謝してても、満足では無いんだよ。
陽斗が居ないから…。
信じられないね、陽斗が居ないって。
おやすみ、あきちゃん。
あきちゃん、大好き。
あきちゃん、ありがとう。

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陽斗が天に還った当初、こんな日数も自分が生きていられるとは思えなかった。
耐えられない、一人にさせられない…でも両親や妹が…常に機会を伺ったり、泣き喚いたりの日々だった。
いや、今日はそんなことを書きたいのではない。
いつも夢は見ているのだが、久し振りにハッキリと覚えていられる夢を見せて貰った。
ありがとう、あきちゃん。
いつもの食卓の炬燵を床の間の方に動かし、その側で陽斗を抱えてる私。
大きくなった、最近の陽斗を、だ。
色々話してると、続き間である隣の部屋から母が急にキツい口調で
「あんた、今月はお金払ってくれるんだろね!?」
何で急に?
何でいきなり怒り口調で?
せっかく陽斗がいるのに?
と、私も応酬。
陽斗が心配げな顔で私を見つめる。
揉め事が激しくならないように、
「今やなくて良いやろ?分かったから。」
と、できる限りの柔らかい口調で母に言う。
まだ言いたそうだった母も察してくれたのか、不満げな顔ではあるけど引き下がってくれた。
「あきちゃん、一緒に寝よう。」
と布団を敷こうと押し入れを開けると、
「これで良い」
と、陽斗が布団を広げ始めた。
陽斗と寝てたダブルの布団を、今は半分に折って、陽斗が寝てた左側に私は寝ている。
その敷き方で陽斗がさっさと布団、毛布、掛け布団…と用意をしていく。
「あきちゃん、それじゃ狭いやろ?いつもみたいに、広く敷こうよ。」
と敷きパッドを出そうとする私に
「大丈夫って。」
と笑顔で敷き、さっさと布団に入ってしまった陽斗。
狭いなぁ、と苦笑いの私。
そこに陽斗の携帯が鳴る。
着信音、どんなんだったかな…
貝殻で作られたかのような、淡く柔らかい色調の携帯電話。
要るのかなぁ、携帯電話。
でも、携帯電話だと思った。
咄嗟に、帰って来いって内容だと感じ、布団に座る陽斗に耳を近付けた。
機械音のようで、何て言ってるか分からない言語だったけど『戻りなさい』って内容だと感じた。
しょんぼりと俯いた陽斗。
「あきちゃん?帰らなきゃなの?」
「…うん…」
「お母さんも一緒に行く!」
陽斗の右手を握り、部屋の窓から隣の家の屋根に向かい浮かぼうとするが、私が邪魔で上手く陽斗が浮かべない。
湿った柔らかく温かい、いつもの陽斗の手。
その右手が、しっかりと私の左手を握ってくれていることが凄く嬉しい。
一生懸命な陽斗。
必死な私。
何とか屋根によじ登るように浮かび上がり、迎えが来てるであろう方向に移動を試みる。
その方向に赤色灯のような、赤いクルクル光の反射が見えた。
私が足手まといになってる、と感じ、
「あきちゃん、お母さん大丈夫だから、先に行きなさい。お母さんも行くから。大丈夫だから。」
と、陽斗の手を離した。
どのタイミングからだかハッキリ覚えていないのだが、陽斗が泣いた。
声をあげて、陽斗が泣いた。
あぁ、辛いのは私だけじゃなくて、陽斗もなんだな…。
陽斗が泣くなら、私は泣けない。
泣かない。
陽斗が余計に悲しむから、陽斗が泣くなら私は陽斗を励ましなだめる。
陽斗の泣き声を聞きながら、屋根の陰で見えなくなった陽斗を追い、必死で屋根にしがみつきよじ登る。
登っていると、陽斗を迎えに来た方々の存在に気付く。
見えないのだけど分かる。
人ではない。
エジプトの壁画にあるような、人のようなアヌビスのような、ゴツい男性のような天使のような、そんな存在が二人居た。
私を押し戻そうと、屋根から降ろそうとしている。
「突き落とせば良いやん!落ちてしまえば、私は陽斗の所に行けて、望むところやわ!」
と喧嘩腰で、私達邪魔をする二人に文句を言う。
ふと、母達にも陽斗に会わせなきゃ、と声を出して呼んだ。
ここから目が覚め始め、自分の声が唸り声のように耳に聞こえる。
お母さん、と呼んでいるのに出てる声は、う゛あ゛あ゛あ゛というような声。
で、目が覚めた。
覚めたのに、瞬きをしても真っ暗。
豆電球がついてるのに、真っ暗。
忘れないうちに母に話そうと、お母さんと呼んだら明かりが見え、母のイビキも聞こえてきた。
夢の内容を反芻しながら、思い返す。
思い返してる間にも、ポロポロと思い出せなくなっていく。
曖昧になっていく、さっきまでの生々しい記憶。
サラサラ零れる砂のように、大切な陽斗との時間が思い出せなくなっていく。
時間を見ると2時09分だった。
目が覚めたら11時。
寝過ぎっぷりにビックリした。
鉢植えに話しかけたり、陽斗の部屋の窓を開けたりくらいしか体は動かさなかった。
父が庭木にミカンとバナナを突き刺してる。
そこに、メジロがやってくる。
ヒヨドリも来るが、父が養いたいのは、メジロ。
可愛い鳴き声をいつも聞かせてくれる。

2つ目のイチゴの花。
12月30日に、プランターのチューリップ第1号が目を出した。
今日までに3つの芽。
まだ先が赤い、芽。
寄せ植えの鉢も、2つともチューリップの芽が出てる。
チューリップ、あと1つまだ芽が出てない。
待ってるよ、頑張ってくれてありがとう。
夕方、弁護士事務所からTEL。
あぁ、そういえば、やらなきゃならないこと、まだ手付かずだ。
明日行くまでに、ちょっとでも手をつけよう。
頑張らせてしまった陽斗に、おやつもデザートも食べて貰う。
一緒に食べようね、あきちゃん。
タピオカも茹でなくちゃ。
仕事帰りにそのまま出掛けた妹が、やっと日が変わる前に帰ってきた。
陽斗にお土産を買ってきてくれてた。
明日朝、食べようね、あきちゃん。
妹にも夢の内容を話して聞かせた。
あきちゃん、夢で会えて、お母さん凄く嬉しいよ。
頑張ってくれたね、ありがとう。
水曜日だね…どうしても、あの日を思い出すよ。
防げなかったのか、って自分を責めるし悔しいよ。
陽斗が大好きなのに、お母さんは良いお母さんじゃなかったからね。
余計に悔やまれてしまうよ。
陽斗に悪くて、自分の足りなさが悲しい。
あきちゃん、ごめんね。
もっともっと、陽斗に優しくしてれば、陽斗は今も一緒に居てくれたのかな…。
居られるように、神様がしてくれたんじゃないかな…。
やっぱり、お母さんのせいじゃないかな?
大好きなあきちゃん。
大好きな、大好きなあきちゃん。
あきちゃんが居ない日々は、どんなに笑っても、やっぱり虚しさがあるんだよ。
誰かにいっぱい感謝してても、満足では無いんだよ。
陽斗が居ないから…。
信じられないね、陽斗が居ないって。
おやすみ、あきちゃん。
あきちゃん、大好き。
あきちゃん、ありがとう。
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