人の声や顔を私はすぐに忘れてしまう。だから久々に昔のアニメを観たとき、このキャラクターこんな声してたっけと疑問符が浮かぶことがしばしばだ。私だけかもしれないが、聴覚や視覚の記憶より嗅覚や味覚の記憶は残りやすい。


 懐かしい匂いを嗅いだだけで一瞬タイムスリップしたような感覚に陥ったりする。味覚も同じだ。味覚の記憶、私が記憶のある限り一番美味しかったステーキの味の記憶は小学生の頃、ファミレスで食べたステーキだ。


 どこの企業のファミレスだったから思い出せない。ただあまり見ない系列だった気がする。

神戸に出かけた私は新しい父親を含めた家族でそのファミレスに入り、何故かは思い出せないがみんなでステーキを食べた。

当時、長い間母子家庭で貧しかったのもあり私はステーキを食べたことがなかった、気がする。

そんな私にとってその大きな焼いた肉の塊はとても美味しかった。

まあまあだね、そう母親も感想を漏らしていたのではないか。


 当時の血の味がする硬いステーキを今も朧げながら思い出せる気がする。

今食べたら何も感想が残らないだろうステーキ。しかしそれは私の人生で食べだステーキの中で一番美味しかったステーキであり、私たち家族の原始の記憶だ。


 家で現在、アニメを観ていた私からチャンネル権を奪い阪神タイガースを応援する両親はステーキどころかファミレスに入ったことすら覚えていないだろうが、私は今もふとした拍子にあの血の味を思い出す。