天国の君へ~闘病生活の果てにある旅立ち
ねえ、君、覚えていますか?
君と果たせなかった約束の事を。
そして、君がこの世界から去り、その後、私が約束の場所で誓った事を・・・
君と巡り会ったこの土地で、私は今「病」と言う魔物と闘っています。
そして、病院の窓からは君と果たせなかった約束の場所が見えます。
君のいないこの土地に、私はいる・・・
君と逢った時の私は、17歳。
周囲からは、些かはみ出した存在でした。
周囲にいた同じ世代の人間がよくわからなかったのです。
歩み寄る努力も少しだけしてみました。
しかし、それらの努力は報われませんでした。
(唯一、一人の友は別です)
学校にも居場所が無く、家庭も調度氷河期でしたので、落ち着ける場所は「まとも」な「音」を流すカフェでした。
そこで君と初めて対面しましたね。
あまり知られていないレコードをリクエストした君を、私はまるで自分の姿を鏡で見せられて興味深気に見る動物の如く見ていました。
人様の方を、じぃっと見るのは宜しくない行為ですが・・・
君はカウンターでホットドッグをクールに口に運びながら、時折、オーナーと会話をしていましたね。
私の興味深い様子に気が付いたオーナーは
「コノ子もこの曲、大好きなんだよね」
と、私の方を差しました。
すると、君は、クールな面持ちの状態で私の方を振り返りました。
そして、無言でカウンターから離れ、私の前の席で珈琲を飲み始めました。
無言の状態で暫くの間、君と私は、その曲を聴いていました。
曲が終わると、君は私に静かに問い掛けました。
そう、何故にその曲が好みであるかと。
私は、吃りながら、手短に理由を述べました。
すると君はクールな表情で君なりに納得のいく解答だと言いました。
人見知りが激しく、また、唯一の場所で、見知らぬ人から話をされていた私はその場から脱兎の如く逃げ出したい衝動で一杯でした。
しかし、恐る恐る顔をあげ、正面から見ると、君の瞳はとても穏やかで思慮深い眼差しを放っていました。
君と私は席を立ち、カフェを出ました。
それが重要な出会いであり、結婚の約束にまで至とは、稚拙な思考回路の私にはまだわかりませんでした。
そして、その日限りで君がこの世界から去ってしまう事も。
君と私は徐々に互いの事を知りましたね。
そして、君は私より10歳上の27歳です(敢えてこれは過去形にしたくない)
そして、君去りしこの世界で、主人と巡り逢う前の私が存在していた、ある言葉をかけてくれましたね。
君は、私の手を始めとする外部には手を一切触れる事なく、「心」に触れましたね。
そして、一日はウルトラヘビー級プラトニックな「結婚の約束」で終わりました。
そして、次の休日に、互いの好きな本を交換しようと約束をしました。
しかし、当日になり、「約束の場所」に行っても、君は来ませんでした。
随分と時計の針は時を刻みました。
不審に思った私はカフェに行きました。
何故、君の家に電話をしなかったかと言うと、不思議とカフェに足が向かっていたのです。
私を見た瞬間、オーナーが発した言葉は「いらっしゃい」ではなく、残酷なものでした。
そう、君があの日あの後、事故で亡くなってしまった事・・・・
私の意識はぼんやりしていました。
君が「いない」事を認識するのには、ひどく時間を要しました。
あれから、約束の場所やカフェには行っていませんでした。
ただ、一度だけ、訪れました。
その時の私は仕事や私生活で珍しく迷っていました。
ベンチに腰掛けると、君がやって来たのでしょうか、迷いがすうっと消え去りました。
私は君に感謝を述べ、
「次にここに来るのは永遠の誓いを交わした
最も大切な人と共に来るから・・・」
そう言い残して去りました。
それから、果てしなく時は過ぎ、永かった哀しみの後、ようやく私の元にも幸福が参りました。
ねえ、君、明後日、君に逢って貰いたい人が私を迎えに来てくれます。
約束の場所で待っていて下さいね。