13.
そのあと私は少し眠った。再び目が覚めたのはカーテンが陽光に透かされて青い地中海色になる頃だった。あー、パパと繋がれた。ほんとにお髭をキレイにしたのかしら?
御母様は?お姉様はどうしているかしら?もう女王としての御仕事を開始している時刻?あ、時差とか時間そのものの概念が地球と違うかも。ここでは数直線で考えるけど確かアルバロでは球体のような時間感覚だったかも..。
と、ベットで色々考えていると、再び通信音が聞こえた
„ ….こ..ア..バロ、こち..アルバロです… 地球からの想念を受信しました。通信を開始します…
地球からの発信者はココ..アルバロ国のココ王女でしょうか?“
…わ、今度は誰? 分からないけど
「はい、私はアルバロ王女ココ、地球に居ます」
向こうの声は一旦途切れて
„女王陛下、妹御のココ王女と繋がりました..“
という声に続き
„ごきげんよう、ココ王女。本当にお久しぶり。昨日ペナポテ宇宙特使から報告を受けました。ご無事な様子、私たちは心からほっとしています。“
姉は昔から動じることのない性質だったがその声はますます貫禄を帯びていた。きっと法治国家としてブレることなく国をおさめているのだろう。
「お姉さま、お元気そう。私はやっと記憶が戻ってアルバロを思い出すことができました。」
„そうそう、お父様が今朝突然王宮に戻られてゆっくり湯あみをなさったか思うと理髪師を呼んでお顔を当たらせていらっしゃるのです。長いこと聞いたことのなかった鼻歌まで歌われて.. 。何が起こったのでしょうか?“
私は思わずニヤリとしてしまった。見なくても手にとるように分かる光景だ。
「お姉さまは王位を継がれて素晴らしいわ。大変でしょうね?」
„まあ、そうでもないのよ。御父様がご在位のときも国璽を捺印するような大きな決裁は実質的にはお母様が行っていたようなものだから。すべて教えて頂けるし、私もこの務めを気に入っています。“
そういえばそうだ。お父様がお務めを終わられたら一緒にお散歩に行くので私はお部屋の外で待っていたけど、一日の終わりには必ずお母様もお父様と一緒にいらして書類に目を通し、何も言わず大きな机の右と左に分けて置いていて右の書類だけに父は大きなスタンプを捺していた。そうか、そういうことだったのね。
「お母様御元気?」
„ええ、でも時々他の星の視察や外交にお出掛けになるわ。ご自分は目立たぬようにされているけどアルバロを保ってこれたのは御母様のお力も大きいわね。でも..“
姉は間を置いてから言った。
„国がおさまるということは行政や統治の力だけでない、ということを感じてもいるのですよ。御父様が位を退かれてから職を辞する大臣たちも少なくなく、戦勝の星でありながら自省する御父様のお姿を通しては国民は改めて戦争、争うことの意味について考えさせられたようです
とにかくココ、これからも連絡をいつでも待っています。私たちは全力であなたをバックアップします。そして地球の住人も皆あなたのように広い宇宙の王宮から来ている王子や王女であること、それを思い出してそれぞれの星の王宮にコンタクトを取ってくれることを祈っています。宇宙の記憶を無くしたまま、地球にきてからの僅かな知識とイデオロギーに囚われて時には苦しんでいるということですから。知恵はいつでも宇宙にあります。求めに応じて直ぐに与えられるようになっています。私はこれから宇宙会議がありますので今日はこれで失礼しますね。また近いうちに、ごきげんよう“
姉との通信はそこで途切れた。
でも彼女が最後に言っていたことは半ば私の任務?であるかのように聞こえた。
私はサイフォンでじっくりコーヒーを淹れて取って置きのブルーマウンテンを味わった後、散歩に出掛けた。
公園で日向ぼっこする知らないお爺さんも子供も誰も彼もあらゆる職業の人が一人残らず皆王子王女でかあ、と思うと一人一人に昔レッスンしたフランス宮廷のお作法で御辞儀をしたくなった。続く