7.

お姉様、アルバロ女王、お父様、お母様、私の故郷

私はふーっと溜め息をついた。さらに高く輝く太陽を見上げた。太陽にとっては地球もアルバロも等しく光を分け与えられる近さなんだわ。

「ココ、多分いままでの地球でのあなたの人生からは想像もつかない記憶を思い出したと思うけれど」

ペナポテは私の表情をくみとるようにして言った。

「ええ、そうね。あなたがさっき私に呼び掛けるまでは私は地球の両親のもとに産まれた人間としてだけ、生きてきたわ。良いことも悪いことも生まれもった環境や条件やハプニングに一喜一憂しながら。それがすべてだと思ってね。今では大きな演劇祭のちいさな芝居小屋のひとつに過ぎなかったことを何て深刻にとらえすぎていたんだろう、と思うわ。で、私はいったいどうすればよいの?設定しなおすってどういうこと?もし私がこの現状がすべて、変わるべくもない、と思って悩み傷ついている現状がもしこの身体や脳の設定を知らないでいたせいだとしたら。どうすればよいのかしら」

ペナポテは古ぼけたパンフレットを私に手渡した。見ればそれには

1966 アルバロツアーズ で行く 地球留学プラン

アルバロ星にソックリ、太陽系のラピスラズリ、美しい地球で安心安全留学!!

*1.000名様より催行  大好評につき第5 臨時催行

弊社スタッフチーム同行

宇宙船内での日程

地球滞在用ネオアース社 地球仕様身体レンタル

 (7億パターンから お好みに応じてご選定頂きます)

(ピニアル社製 脳 IQ 301 搭載)

マッチング、フィッティング、行います。

個別カウンセリングの上、人生のイベントオプションご選定頂きます

ホストファミリーをお選び頂きます

ピニアル社製 脳操作法講習会

現地到着後スタッフが完全サポート致します

*なおピニアル社製脳はすべて同社工場出荷時の設定になっておりますので、お客様が現地ホストファミリー到着後ご自身でお好みに応じて再設定いただくことになりますので予めご了承ください。(宇宙船内スタッフによる事前設定は承っておりません)

 

私は驚愕した。

何てこと! ペナポテによってすべて思い出せた今となってはこんな旅行ほとんど詐欺だ。

こんな事前準備が必要なこととは知らされず、私たち、殆ど同年代の(中には宇宙王族学校の顔馴染みも沢山乗っていた)は宇宙船のなかで戦争の暗いムードから解放され修学旅行のようにただ毎日楽しく遊び呆けていた。第一ガイドなんて居なかったし、説明会や個別カウンセリングなんて一切なかった。ただある日、宇宙船操縦士が「地球に着きましたよ。自分の名前の書いてある身体を各自まとって地球に降りてください」といわれるまま私たちは急いで自分のを見つけて着ると宇宙船はさっさと飛びたってしまった。そのあと皆とバイバイまたねといいあってお別れし、地球での両親のもとに産まれるという形でホストファミリーを得た。そういえば隣のクラスだったケラル王子やマハル王女も今思えば私の地球人生の節目節目で友人として会っていた。おそらく彼らもさっきまでの私のようにまったくの地球人であることを疑わず悩みながら生きているのだ。

そしてこの詐欺まがいの旅行社の雑な、或いは巧妙ともいえるやり口は、脳の操作方法を一切私たちに知らせないことで宇宙の記憶を消し、クレームどころか故郷へのコンタクトを取る手段をたったことだ。戦争のどさくさをいいことに自分達は旅行商品を最大まで売り抜けて逃げ、戦乱が終息したころ、子女を同社のツァーで地球へ避難留学させていた親たちが子供に連絡を取ろうにも取れないことに大騒ぎし、共同でチャーターを飛ばして地球にいる我が子の無事を確かめた。が地球での身体を纏った本人たちは記憶を消されている(脳のアプリケーションはあっても操作の仕方を知らないので全く反応しない。これは何事!と集団でアルバロツアーズに訴訟を起こそうにも後の祭りでその旅行社は逃亡、親たちが子供の魂の地球での容れ物である地球仕様身体と脳の製造会社に問いただしたところ、「我々はただ製品を製造し販売しただけですから、まあそうはいっても各商品の出荷時の設定通りに期限が終われば自動的にお子さんたちはお帰りになられるでしょうから」との説明に対し「そうか」と気長に待つ親、自家用宇宙船で直接連れ帰る親、さまざまだったようだ。

続く

 

 

 

 

 

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