86.

姉からの手紙。美しく堂々とした筆跡は国政者のそれそのもので私は少し圧倒された。

姉は母のように毅然として頭脳明晰、8歳も年が離れているせいかいつも大変な大人に見えた。宇宙王族寄宿学校から卒業したのと入れ替わるように私が入学したので学校での彼女の様子は知らないが、抜きん出て優秀、公正な判断力から信頼も篤く既に5年生から生徒会長をつとめていたようだ。

休暇でアルバロの王宮に帰っているときも王位を継承するために身に付けるべきことも多く、いつも何らかの家庭教師と居る姿しか見たことがない。朝の5時から午後6時まで哲学、数学、宇宙ラテン語、乗馬、声楽、経済学、法学と朝食、昼食、ティータイムをのぞいてビッシリとレッスンが組まれていた。母がしっかりと管理していたこともあるが姉がそのハードなスケジュールで不機嫌になったことはなかった。元来学ぶのが好きなのだろう。大学を退官された教授陣からアカデミックなレッスンを受けていた彼女は宇宙大学でも2年で法学部をさっと切り上げ宇宙司法試験に合格し、さらには医学部に学び研修医として働きはじめたところで戦争が起きた。ほとんど勉強する姉の横顔しか覚えていないような姉妹関係であったが聡明な姉らしく、私が困るだろうこと、欲しがるものを予測しては適切にサポートしてくれた。そんな姉は私に何と書いてくれたのだろう。

「懐かしい妹、親愛なるココ王女、

 あなたが地球に暮らしていること、楽しく過ごしていてくれることを私たちはずっと祈っていました。あの戦争の混乱で学業

半ばで学校を去らざるを得なかったあなたたちの学年、なかでも戦争での当事星であった私達をお父様は非常に心配されて私は遠いスピネル星での研修医に送られ、あなたは地球へと留学に送られました。留学の手続きは未成年だったあなたに代わって私が代理で王室の人間であることを隠し一般のパスポートで申込みました。私はその後何度もメッセージを送りましたがあなたから全く音沙汰がないので調べたところ、その旅行代理店アルバロツアーズは問題のあることが発覚。地球での身体と脳の設定方法を参加者への講習義務を怠り、説明義務のあるガイドも同行せず参加者が三々五々現地に送りこまれて終わり。どうも現地適応出来ないという旅行客のクレームが殺到したことからその会社の不正が露見し、騒ぎになった頃には商品を売り抜けてアルバロを脱出してしまっていたのです。幸いあなたの無事を確認出来ていたので一時は錯乱しかけたお父様も正気を取り戻したのですが。ペナポテ王女から聞いたでしょうが私たちは篤い友情で結ばれていたにも関わらず、アルバロは星圏ごとの条約機構の諍いで結果的に彼女の星を攻撃し滅ぼす運命を背負わされました。お父様はペナポテ王とも大の親友、遠くとも非常に親密な友好星でしたから身を切られるような苦しみを受けて一時は病床に伏されました。が「再びココに会うのでしょう?」というお母様の一言から驚異的に快復されました。しかし健康になればなるほどかえって自己嫌悪にさいなまれるになったのです。自分一人がそのまま安楽に権力の座に居て良いものか、ペナポテ王の一家も散り散りになりそこの住民は命を落とし或いは外の星に入植を余儀なくされた。そんなある日「親友の故郷を破壊し遠い星に追放する運命を負ったアルバロ、忌まわしい我が身!」と絶叫しながら洞窟に走り入り「親友と同じ苦しみを味わうのだ」とオデュッセウスの帰還を待つその父さながら灰を撒きその上に寝起きを続けているのです。何度も父の様子を見に行っているけれど父の気持ちも分かるのです。今ではだいぶ眼が安定してきました。彼の魂が洞窟にいることで落ち着いているのなら今はそうすべき時なのでしょう。そしてそうそう、あなたのことですが、私もあなたに謝罪しなくてはなりません。当時私も次の研修先への準備に忙しくあなたの留学を最大手の代理店で良く調べもせずに申し込んでしまった。今思うと大いに違法性はあったのですが見落としてしまった。法学を修めていながら私としても恥ずかしいことです。ココ、あなたは地球に適応する術を知らないまま無防備にここまで来てしまった、旅行会社や私たちからのサポートも受けられず言わば丸腰で戦場に行かされたような状況なのです。せめて今からでも対応出来るようその当時配布された地球仕様の身体と脳の型番の取扱い説明書を入手しましたからペナポテ王女に助けて頂きながら設定し直してください。なお、困っているのはきっとあなただけではないはずです。おそらくほぼすべての地球の人々は、あなた同様、多くの星の王子や王女。個々の理由から留学先としてみな地球に留まっているのです。(中にはしっかりと説明をうけて容易く成功している人もいますが)

では、あなたの幸福とあなたからのお知らせを待っています。」続く



















 

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