店のママに嘘をついた。
母の体調が悪いから、5月いっぱい週末実家に帰るので店に出られないと伝えた。
ママはこういう時しか親孝行できないから、行ってらっしゃいと快く承諾してくれた。
これで良かった。
そう思った瞬間だった。
当初、ママに本当のことを言ったら、市民病院なんかじゃなく、がん専門の病院へ行った方がいいとか、色々口出しして先輩達にも喋って、大騒ぎすることを懸念していた私。
でも、たぶん違う。
本当のことを言ったら、ママは気を病んで体調を崩すかもしれないと感じた。
ママの旦那さんが軽い事故を起こした時もそうだった。
年老いたママに精神的な不安を与えてはいけない。
そう思った。
結局ダンススタジオも、月曜と火曜の仕事を家庭の事情を理由に7月で辞め、土曜日だけにするという話がまとまってはいたけれど…
私の後任のことで代表と代表の娘(副代表)が揉めていた。
そしてその会話を聞いていた一昨年に一人目を出産し、これから二人目を計画していた30歳のインストラクターが
『二人目のことを代表に話せる状況じゃない…』
と泣きながら私に言ってきた瞬間、彼女にも本当のことを告げなければいけないと思い、泣きながら話した。
『今すぐ代表に言った方がいいよ!』
『今すぐ言わなきゃダメだよ!』
と、私が懸念していた言葉が返ってきた。
今、一番言われたくない言葉だった。
彼女ならそう言うであろうと予測はしていたので、言うつもりはなかったけど、これから私がいなくなる事で、確実に一番負担がのし掛かるであろう彼女には話すべきだと思った。
今はまだ、どこの病院に入院するかも、いつから入院するかも決まってないから、決まったらちゃんと代表に伝えるから、それまでは黙っていて欲しいと伝えた。
どの道、今日話そうが1週間後に話そうが、さほど変わらない。
連休もあるし、後任の話や諸々の話は、すぐに決まる事ではないだろうと…私なりに考えての判断ではあった。
正直、彼女に今すぐ伝えるべきだと言われたのは苦痛だった。
涙を流さずに話せる精神状態ではない私に、根掘り歯掘り聞くであろう代表に話すのは苦痛でしかたなかった。
しかも代表だけでなく、代表の娘もセットだ。
夜、彼女からLINEが来ていた。
『変な発言しちゃってゴメン』
って。
その一言で、救われた。
そして、代表へは癌である事を告げるのは止めることを決意した。
入院することは伝えるけどね。
適当な言い訳を探さなきゃ…
やっぱり、色んな意味で信用、信頼、深い関わりがある人にしか極力話したくない。
1ヶ月入院して、確実に退院できるなら、生きて戻れるなら、言ってもいい。
でも、なんの保証もない現状、自分が死ぬ可能性があることは言いたくない。
医者は本当のことを私には全部話してないと思う。
日本での症例はまだ少ない。
けど、アメリカでは当然ながら死亡者だって出ている。
化学療法で完治するとは限らないし、手術したって転移しないという確証もない。
それでもなんだか今、何の根拠もないけど、自分の生命力を信じている私がいる。
絶対に死なないって。
私はそんなにヤワじゃない。
でもこの自信は、まだ不安定。
それでも、直接二人の子に打ち明けられたことは、私にとって何かしら力になったのは間違いない。
3年勤め、姉妹みたいに仲良くしてきた子達。
可愛い妹分。
今のこの状況を笑い話にできる日が来ることを願って。。。
私はまた嘘をつき、真実を伝える。