(昨日の投稿より続きます)


 

 皆さんはここまで読まれてきて、違和感を感じた箇所はなかっただろうか?
筆者には警察発表や当時の報道がまったく触れず、なお且つ 強烈に違和感を感じる部分が二つほどある。

 まず一つ目は単独犯であったのか、複数犯であったのか? という疑問である。

以前にも少し触れたが筆者は 数種類の空手の流派、テコンドー、タイ式ボクシング などで指導員をつとめた。 それらのトレーニングで “シャドウ” という項目がある。 まあ、ボクサーがやる ”シャドウ・ボクシング“ と同質のものだ。
 当然、黒帯で大会出場を目指す真剣なヤツなら 6~10 ラウンドぐらいこなすが、ふだんトレーニングしていない人は 3分 動けないのである。
 シャドウではよけたり、下がったりする場面を想定することもあるので、息が切れないようコントロールすることもできるが (ふだんから十分に走り込みして、心肺機能を強くしていても、である)、そうでない人が休憩もせずに攻撃に専念し、子供一人当たり 20刀、単純計算で 80刀 以上を浴びせるのに何分かかるのであろうか? 長男に至っては 片腕がほぼ切断されていたのである。

 そして犯人が包丁を振り回す間、4人 の子供たちは 悲鳴や泣き声を上げず、殺されるのを並んで待っているものであろうか?
だれか 1人 でも逃げ出そうとしなかったのだろうか?
それはあり得ないと思われる。
 

 4人 が寝ているところに侵入し、一刀のもと 殺害したのなら、殺すことはできるかもしれないが、居間 や ベッド には血痕もなく、荒れてもいなかったのである。
 

 どうやって 4人 をコントロールできたのだろうか?
A. 刃物を使用した犯人が二人いた
あるいは

B. 犯人の一人、或いは二人が、子供を一人ずつトイレに連れて行って殺害し、もう一人の犯人がその間他の子供たちを管理下に置いていた
 という場面以外思い浮かばない。


(殺害された子供の墓前には 今も愛用の おもちゃ が置かれている)

 筆者は “実行犯は二人以上いた” と考える。 それゆえ犯行に 使用された包丁も 二本 であったのではないだろうか?
 もちろん、途中で刃が折れたから 二本目 を使った、という可能性もあるが、かけた刃を持ち帰るものであろうか? 

 そして殺害された子供の骨に、欠けた刃の破片が残っていたという報告もない。
 筆者にはなぜか シンガポール警察が ”単独犯“ と決めて捜査しているように見え、不思議で仕方がない。
 

 そして、もう一つは 本当にフラットの住民はだれも目撃していないのか? ということである。
 当時の シンガポール の HDBフラット は壁の防音もそれほどしっかりしたものではなかった。 筆者も 80年代中頃、友人の HDBフラット の自宅に 一週間 ほど泊めてもらったことがある。 たしかにドアを開けていない限り、隣の会話が聞こえてくるということはなかったが、人の出入りは分かるし、通路に人がいる気配などは分かる。

 

 このエピソードの (2) のところ --- 陳 と 李 が 事件当日の朝、登校・送りのサービスを終えたのち帰ってきた場面で 「室内は恐怖を感じさせるほど静まり返っている」 と表現したが、これは恐怖感の効果を出そうとして書いているのではなく、もともと当時の HDB は閑静な場所に建造されたものも少なくなく、静寂ではあった、という意味である。


 そして、一つ奇妙な証言がある。

 陳一家 と同じフロアーの住人で 68歳 の 老女、ヤム・イウ・ティン (広東系の名前で “任瑶婷” だろうか?) は毎日共有スペースのコリドー (通路) に椅子を置き、子供たちが遊んでいるのを見ていた。

(ヤム・イウ・ティン)

 同じ棟に住む周囲の人々もそれを知っていた。 それがやることのない老人の日課だったのである。 当然、事件発生直後、警察は事件をじかに目撃した可能性がある人物として、この老女に捜査協力を求めた。 しかし、この老女は 「事件当日はその時間、髪を洗っていて何も見ていない」 と答えた。

 当時、年配の女性で朝に洗髪する習慣の人がいたのは事実で、それは マレーシア や タイ、インドネシア、シンガポール などの南洋の国では、夜に髪を洗ったのち完全に乾ききる前に寝てしまうと、”頭虱 (しらみの一種)” が湧きやすかったからだ。 

 だから、任老人が本当に髪を洗っていた可能性がないわけではない。 しかし普通に考えればこれは 「証言したくない」 の意味だろう。

                                       (明日に続きます)