(昨日の投稿から続きます)

・容疑者男女は何者か?

 警察はすぐにこの 二人 の 身元 を調べ始めた。 李秋梅 の家族は 防犯カメラ の映像を見たがこの 二人 には 面識 がなかった。 ホテル の フロント は二人の容貌を憶えており、 「男性の方は 身長 約 1.7 m、がっちりした体つきで、女の方は 20 歳 以下のように見えた」、「とても 美人 でこんな 犯罪 を犯すようには見えない」、さらに「(女が何度も部屋から出入りした際) 表情 も落ち着いて 穏やかだった」 との証言も得た。 とても大それたことをしているようには見えなかった、という。
 ホテル に チェック・イン した際に 確認された 身分証 に基づく情報では、8607 号室 に宿泊したうち、男の方は 李小四 という 18 歳 の 無職 の男子であった。 しかし 警察 が 李小四 に関して調べてみると、その 容貌 は 非常 に痩せて 小さく虚弱 そうな体形で、映像中の男とは イメージ が全く合わなかった。 捜査人員 は 李小四 の家に行ったが誰もおらず、隣家の住人も 李小四 の行方を知らないという。  
 しかしこの時、李秋梅 の 通話記録 を調べていた 別チーム の 捜査員 が、事件の前日である 4 月 7 日 11:30 頃から、それまで 現れた ことのない 番号 と 頻繁 に連絡が取られるようになったことを指摘した。 李秋梅 はこの 番号 との 通話 ののちに店を出ており、警察はこのナンバーこそが 李秋梅 に ホテル に来るよう取りつけ、犯行に及んだ人物の 電話番号 とみた。 さらにこの 番号 は 開設時 に 個人情報 が 登録されておらず、この事件が非常 に 計画的 で 陰謀性 のある 犯罪 の可能性を感じさせていた。 



・動機からの推理
 身分証 と 携帯電話番号 からの線が途絶えてしまったため、捜査当局 は犯人の 犯行動機 の推測から展開を図ることにした。 

まず、李秋梅 に関する データ。
李秋梅 は 数年前 に 江西省南昌市 にきて、ブティック経営 を始めて10年になる。 夫とは離婚し、娘が一人いる。 
経済状況 は非常によかったことから、事件は 金銭目当て の殺人だったのではないか? 
李秋梅 の 家族の証言では、李 は 銀行カード を身につける習慣があり、十数万人民元の預金 があった。 李の 失踪当日、銀行カードのうちの 1 枚から 2 万人民元 が引き出されている。 しかし引き出した銀行の ATM の 防犯カメラ はちょうど故障中で、このためだれが 現金 を引き出したのかは確認できなかった。
この時点で 事件発生確認 から 約 14 時間 が経過していたが、この線での追及も絶たれた。

捜査当局 はまた 別の角度 から 捜査 を継続せざるを得なくなった。



・もう一つの血痕
 4 月 8 日 16:00 頃、8607 号室 の 検証 を続けていた 捜査当局 は新たな 血痕 を発見した。 しかし DNA 検査、それは 李秋梅 のものではないことが分かった。 では犯人のものか?

警察 はデータベース 内 を 逐一対比 させた結果、該当する人物を見つけた。
 それは “阿里”  という前科のある男性であった。 (回教徒っぽい名前なので、もしかしたら ウイグル族 出身かもしれない) 阿里、34歳、無職、、、、正常な 経済基盤 がないことから、しょっちゅう コソ泥 や スリ などの犯行を繰り返していた。 彼の 外見的特徴 は 防犯カメラ中 の男に非常に似ており、さらに 事件 の 約一週間前 には事件のあった ホテル の8607 号室 に 宿泊 していたことが分かった。 捜査当局 が意外に思ったのは、阿里 を探すのに 特に 何の 努力 も必要とせず、彼らが 阿里 の自宅に到着した時、阿里 はそこにいた。 
そして 「たしかにその ホテル に宿泊した。血痕 は私が 果物 を切ったとき、不注意 で手を斬ったものだ」 と答え、さらに 李秋梅 が殺害されたとみられる 4 月 7 日 午後 の アリバイ に関しては、「友人と 麻雀 や トランプ に熱中しており、犯行に関与しているヒマはなかった」 と供述した。 そして、その通りだったのである。
 これにより 捜査当局 は 阿里 の 嫌疑 を 排除 せざるを得なくなった。

・結婚する気のない交際相手

 物証方面 からの線はとぎれたかのように見えた。
警察は 李秋梅 の 社会関係 の線からの 捜査 をいったん休止し、防犯カメラ の 映像の中から、男女の情報を探し出すことを考えはじめた。 李秋梅 は 事業 に没頭しており ブティック 経営 は 非常に好調。 気が強く、典型的 な 「女強人」 であったという。 十年前、李はもとの夫と 協議離婚 しており、幼い娘を連れていた。 
 南昌に来て商売を始めてから、生活は 規則正しく、社会関係 も 非常に シンプル で何人かの 友人 を除くと 世間一般 とのかかわりは少なかったが、南昌市内 に "丁大慶" という名の 交際中 の 男性 がいることが判明した。 
 警察 の 捜査 によれば 丁大慶 は 李秋梅 より 15 歳年上 で、普段から 李 には非常にやさしく接し、ブティック の 開店資金 を 融通 したのも 丁 であったという。 丁大慶 は 会社総経理 で 経済条件 は優れていた。 しかし二人は 5,6 年 という 長期間 にわたって 同棲 していながら、まだ 結婚 していなかった。 そしてそれは 丁 にはすでに 結婚 20 年 以上の 妻 と 18 歳 の 息子 がいたからであることを突きとめた。 李秋梅 が 殺害 されたとみられる当日、李 は店を開ける前で、失踪の 約 30 分前 に 丁大慶 からの 電話 を受けている。 また、丁は 事件発生後 に 複数回 にわたってある 同一 の 銀行口座 に 毎回 5 万人民元以上 の 送金 していたことも分かった。 
捜査当局 は、事件 が 恋愛トラブル である 可能性 を想定し、注意深く 調査 を続けた。 しかし、警察 は 丁大慶 周辺 の 親戚 や 友人 にも 事情 を聴いたところ、いずれも 丁 とその 妻 はとっくに気持ちはつながっておらず、それでも 離婚 していないのは 息子 の 親権 をとられるからだ、と証言した。 さらに 丁 は 李 の 両親 とも仲が良く、実際 この事件の後もずっと 面倒 を見ている。 李 の 失踪直前 にした 電話 も、昼食 の 約束 をしたのであった。 多額 の 送金 ものちになって 別の友人 との 取引上 のものであったことが 判明 した。 そしてこれら 周囲 からの 証言 をもとにすれば、丁 と 李秋梅 の 恋愛は トラブル なく 安定 していたとみられる。
さらに 重要 なことは 丁 の 体型 は 防犯ビデオ中 の がっちり した男とはかけ離れていたことであった。 これで 恋愛トラブル の線・・・丁大慶 も 基本的に 嫌疑 から外れたことになる。
                                     (明日の 後編 に続きます)