競馬世界最高峰のレース、凱旋門賞。
チャンピオンディスタンスと呼ばれる2400mをフランス・ロンシャン競馬場で競う。
日本馬は約半世紀前、スピードシンボリが初挑戦してから、幾度となく高い壁に跳ね返されてきた。
13年前、エルコンドルパサーが優勝馬モンジューに半馬身差の2着と健闘。
遠かった、遠過ぎた世界の頂点が近く感じた。
それと同時に破れない大きさを、高さを感じた。
それからというもの、いつかその高い壁を乗り越える馬が現れることを夢見てきた。
6年前、三冠馬ディープインパクトが挑戦。
日本で見せた規格外のパフォーマンスは、今までで一番大きな期待感を抱かせるには充分だった。
ついに壁を乗り越える時が来たと思った。・・・だが、結果は3着入線のち、失格。
何となくすっきりしない、禁止薬物使用が発覚しての失格。
だが、3着入線であった以上、どちらにせよ、当時最強と言われた彼の力を持ってしても、
その壁を乗り越える事は叶わなかったのである。
一昨年、ナカヤマフェスタが僅差の2着。
GⅠホースではあるものの、失礼ながら当時のNo.1ホースとは言えなかった彼が健闘したことで
馬の実力、騎手の実力、厩舎やオーナーの準備、そして運。
全て揃えばきっと勝てるというところまで来ているな、と感じた。
そして今回。昨年の三冠馬、オルフェーヴルが満を持して海を渡った。
昨年の三冠、そして有馬記念を快勝。今年の阪神大賞典の逸走(2着)があり、
天皇賞春では不可解な惨敗を喫したが、宝塚記念で見事に復活を遂げた。
前述の逸走であったり、騎手をラチにぶつけて落としたりと稀代の暴れ馬ではあるが
同時に実力も最高峰であることは疑いようがない。期待大である。
騎手は前哨戦フォワ賞から、ヨーロッパの名手で日本でもお馴染みのスミヨン騎手に。
「凱旋門賞に勝つために」と、デビューからコンビを組んでいた池添騎手を降ろした。
スミヨン騎手は凱旋門賞を2勝しており、まさに勝つための騎手変更だと言えよう。
また、ディープインパクトのようにぶっつけ本番とはせず、
凱旋門賞と同コースで行われるフォワ賞をステップレースとして使った。
また、帯同馬としてアヴェンティーノを同行させ、レースも一緒に使うという形を取った。
これがフォワ賞では上手くハマった。アヴェンティーノの後ろを走らせて落ち着かせ、
直線はコースをしっかり空けてそこを突かせた。オルフェーヴルは直線伸びて快勝。
人馬の実力、万端の準備・・・全てが整った。あとは運を天に任せるだけだ。
すると、これは幸運と言っていいのか分からないが、ライバル達の回避が相次ぐ。
最大の強敵と目されていた昨年の優勝馬デインドリームが
自国の馬の疫病の為に出国できなくなり出走回避。
同じく昨年3着のスノーフェアリーも故障で回避となった。有力馬の1頭とされていたナサニエルも回避。
しかし枠順決定で、暗雲が立ち込める。不利とされる大外18番枠からのスタート。
とはいえ決定したことはもう変えようがない。だがデータから言えば勝率は低い・・・
また、直前まで動向が決まらなかった英国2冠馬キャメロットが鞍上に名手デットーリを配して参戦。
地元フランスのダービー馬サオノワも追加登録料を払って参戦してきた。
やはり簡単には勝てそうにない・・・勝てるのか。勝って欲しい、勝ってくれ。
ファンである我々は信じることしか、願うことしかできない。
そしてスタート直前。
パドックそして本馬場、オルフェーヴルは落ち着いていて、とても雰囲気が良く見えた。
筋肉の盛り上がった栗毛の馬体が美しく輝いている。
ゲート前。それまでつけていたメンコ(覆面)を外す。
漲る気合。それでいて落ち着いている。いい感じだ。もしかして・・・勝てるかも。
全馬ゲートにおさまり、遂にスタート!
無事にスタートを切ったオルフェーヴルは後方で大外からやや内側に潜り込む。
道中は終始後方から2番手。引っ掛かる様子もなく、しっかり折り合いが付いている。
気に掛かる事と言えば、後ろ過ぎやしないか・・・?ということ。
だが、信じて見守ることしかできない。
レースはフォルスストレート(偽りの直線)と呼ばれるロンシャン競馬場の名所から徐々に動き始める。
本当の直線に入る前の緩い緩いカーブ。まだまだゴールまでは1000m弱ある。
ここから全力ではとても最後までは持たない。
まだまだ、と力を溜めながらオルフェーヴルはポジションを上げていく。
最終コーナー。オルフェーヴルのエンジンが点火した!
フォームが力強くダイナミックに変化する。楽な手応えで外から一気に差を詰める。
物凄い勢いで大外を駆け上がって行くオルフェーヴル!
残り300mを過ぎたところで更に加速!先頭に立ち一気に他馬を突き放しにかかる。
残り200m。内に切れ込みラチ沿いへ。他馬とは全く勢いが違う!ついに、やったか。
競馬を愛する日本人の夢を乗せて、栄光のゴールへ驀進するオルフェーヴル。
勝った!日本競馬界長年の夢が、遂に叶う時が来たんだ。
誰もがそう思っただろう。
追いすがる馬はもういない。
・・・はずだった。
だが、1頭だけ、いた。地元フランスの牝馬ソレミア。鞍上は日本でも知られているオリビエ・ペリエ。
1996年~98年に凱旋門賞を3連覇している、まさに名手。地元フランス人。
最終コーナー手前で2番手にいた馬だ。直線に入ってすぐ先頭に立ったが、
内でじっと我慢して仕掛けを遅らせていたのだ。
でなければここでオルフェーヴルに追いすがれるはずがない。
虎視眈眈と狙っていた地元フランスの意地が、最後の最後でオルフェーヴルの前に立ちはだかった。
残り100m。オルフェーヴル先頭、ソレミアとの差は1馬身以上ある。
後ろは5馬身近くちぎれている。ソレミアの追撃さえ凌げれば、間違いなく勝てる。
だが、無情にもその差はゴールが近づく程に縮まって来ている。
凌いでくれ!祈るような思いで2頭を見つめる。
残り50m。まだオルフェーヴルが先頭だ。ゴール板はまだか!早く、早く来てくれ!
こんなにゴール板が早く来てくれと思ったことは今まで無かったと思う。
こんなに残り50mが長く感じたことも。
しかし遂に、オルフェーヴルは力尽き、ソレミアにかわされた。その先がゴールだった。
クビ差の2着。本当に惜しい、惜しい2着。勝ちに等しいと言ってもいい。
しかし、である。勝ちに等しいということは勝ったのではなく、負けたのだ、ということ。
夢は、またしても叶わなかったのだ・・・。あと本当に、本当に少しのところで。
だが、夢を見させてくれたオルフェーヴルには心から感謝したい。
海外遠征、大外枠など不利な状況をものともせず、直線で堂々と大外から先頭に立ったあの勢い。
本当に勝ったと思った。残り50mまで夢を見させてくれた。素晴らしい走りだった。
陳腐な言葉になってしまうが、興奮を、そして感動をありがとう。
凱旋門賞制覇の夢は、また来年以降に持ち越しである。
でも、僕はいつまでも待つ。いつか、その時が来ると信じて・・・。