その日、良一さんはオールでカラオケに付き合ってくれた。


なんで世の中に失恋ソングってあんなにあるんだろ。笑





その二日後、荷物の返却のために彼と会うことになっていた。



良一さんは、約束の時間の直前に電話をくれて、励ましてくれた。






鍵を返すと、泣き出す彼。


(お前が泣くなよ。
あたしが泣けないじゃんか)





「最後に抱きしめていい?」

「どうぞ」

(あ、ガソリン入れて帰ろ。)






「それじゃ、さよなら」







なんだか涙も出なくて
でも泣いてすっきりしなきゃいけない気がして




ガソリン入れて、コンビニでお酒を買った。




そこのコンビニで、彼にもらったキーケースを捨てたい衝動に駆られたけど、我慢した。







家に着いて一本目のビールがなくなる頃、着信音が鳴る






彼のはレミオロメンだけど、ケツメイシだ。



良一さん
「大丈夫だったか?」




そしたらなんだか涙が止まらなくなって




彼との記憶、彼と三角関係だった元同僚(男)のこと、彼のメンヘラの元カノ…

いろいろ吐き出してしまった。




いつもと変わらず、うんうんって聞いてくれる良一さん。





「いいから。全部吐き出しちゃいな」





良一さんには、私の一生分のありがとうとごめんなさいの50%くらいを、言わなきゃいけないのかもしれない





あの時はありがとう。


いっぱい傷つけて、ごめんなさい。




恨んでますよね?
良一さんは、彼と私の元同僚。
私が辞めた一ヶ月後に、良一さんもそこを辞めた。



それでも、私と彼が付き合っているのを良一さんが見抜いて以来、彼には相談にのってもらうことが多く、お世話になっていた。



私にとって、お兄ちゃんみたいな感じ。
見た目はくまさんみたいなくせに、繊細な人。笑




私の最後のシフトの日、良一さんは休みだったのにわざわざお菓子を差し入れしてくれて、中には手紙が入ってた。




「君の笑顔はキッチンもホールも優しくしてくれた。けど、無理に笑う君が心配な時もあったよ。君はどこへ行っても愛される人だけど、無理したらいかんよ。」




額に入れて、一生飾っておきたいくらい嬉しかったことば。





頼れるのは、良一さんしか考えられなかった。




「彼と別れました」


「そっか…」




「なんか実感なくて、空っぽなんです」

「ご飯も作ったし、掃除も洗濯もしました。でも、あたしもう要らないみたいです」

「誰かに必要とされないって、こんなに辛いんですね」

「空っぽな人間は、涙も出ないんです」





「…俺さ、あいつ大っキライだったんだ」




「…は?え、でも職場ではあんなに…」




「それは仕事を円滑にするため。それに君と付き合ってたから。でも今もっとキライになった!」


「俺、あいつキライだ!」



「じゃあ、あたしも!ww」



「よし。カラオケ行こう!!」







なんすか、それ。31さい(笑)


でもありがとう。
あれは、いつかの朝。


別れ話をして号泣した後、されるがままに彼に抱かれて…
その後の記憶はない。



恐ろしく空虚な朝。




ぼんやりと覚えているのは、セックスの間じゅう、愛してる、別れたくないとひたすら言った気がすること。



記憶が吐き気を連れてくる。
発作的に髪を切りたくなる。




それから、私が寝てる間に仕事に出掛けた彼の部屋を、至極当たり前に、かつ機械的に片付けた。
髪の毛ひとつ残さずに立ち去ってやろうと決めた。




午前12時。自分の部屋に荷物を置く。
先月、彼のアパートの少し近くに引っ越したばかりだった。
近くでバイトも見つけた。




良一さんに電話する。
夜ご飯の約束。


森田さんに電話する。
週末の合コンの打ち合わせ。





シャワーを浴びて、タバコに灯をつける。
ようやく、呆れるほど冷静に、冷酷になった自分に気付く。



何も無かったことにしよう。彼との九ヶ月を。




あてもなく車を走らせた。