生命(いのち)を輝かせる言葉の森 -6ページ目

経営者が、「人の成長を信じる」ことの意味 (ダイキン工業井上礼之会長の新刊)

現代の経営は、変化対応にかなりの時間を割かなければいけません。
変化を把握し、それに対応する事業戦略を立て、実行する、いわば論理的な思考力が中心となっているわけです。
しかし、結果として、重要な要素であるはずの「人」に対する扱いがおろそかになっていると感じられている方も多いことでしょう。

そういった方に是非一読をお薦めしたい新刊があります。
書名 人を知り、心を動かす

    ~リーダーの仕事を最高に面白くする方法~

著者 井上礼之(ダイキン工業会長)

出版社 プレジデント社

 

ダイキン工業自体は、エアコンのメーカーくらいの認識という方も多いかもしれませんが、実は世界一の空調設備メーカーです。

 

2021年3月期の見込み
売上  2兆4,800億円(海外比率77%)

経常利益 2,320億円

従業員    83,000人(海外比率83%)

 

1994年に井上氏が社長を引き継がれていますが、当時からの日本は失われた30年として成長がほぼなかった時代でした。
それが売り上げで6.6倍、経常利益にいたっては83倍という実績は素晴らしいという他ありません。

きっとインバーターエアコンに代表されるような技術的な優位性をうまく活用されたからだと思って新刊を書店で手にしてみたところ、井上氏は人事部門が長く、文系出身者といえるご経歴。

ますます興味を持って、購入し読了しました。

成功された経営者に共通する事実重視、現場重視の経営であるとともに、現場のリーダーがそのまま使えるものの考え方や人を活かすコミュニケーションのアイデアも豊富に紹介されています。

しかも、「人を人として扱う」、という当たり前のことを決して外さない強く心を感じることができます。

以下、心に響いた言葉をいくつか記しておきます。

・私の中で変わらなかったこと。それは、「メンバー一人ひとりの成長の総和が、組織の成長の基盤になる」という信念です。
・良いリーダーは、「正面の理、側面の情、背面の恐怖」を備えています。
・リーダーに求められる役割とは「成果を出し続ける」ことであり、それを「人を通じて実現する」ことである。
・組織は、「仕事の体系」であると同時に、「感情の体系」であることを忘れてはなりません。

・成果を出し続けるリーダーシップは「メンバーを知ること」から始まる。

・相手を察した言葉でも届かないときは、「待つ」ことがベストの場合もあります。

・人の能力の差なんてほとんどありません。私は人の成長の可能性を信じてきました。
・人は心の持ち方一つで、とんでもない力を発揮する。

・成長するために大事なことは気持ちが前向きな状態。大げさに言えば、「心の持ち方次第で人生は変わる」

・メンバーが多いことはリーダーとして「知る努力を放棄する」理由にはならない。
・直接会う、アナログなコミュニケーションには、人の心の奥にある本音や思いを感じ取りやすいといった利点がある。
・本音を引き出そうと思ったら、ロジカルよりノンロジカル
・自分が理解しにくいと感じる人であるほど、知る努力を惜しんではいけません。
・成長する人は、挑戦し続ける人
・叱っていい、但し怒らない。

・先が見えないときこそリーダーが一歩踏み出す勇気を示し安心感を与えることです。
・強い組織に存在する、厳しさから生まれるぬくもりには、葛藤を越えてお互いを認め合う、、信頼する気持ちがあります。

・答えのないところに答えを出すのがリーダーの役割

・リーダーは出来るだけ多くの人と会い、対話する

・組織が人の営みである以上、成果を求めるためにリーダーは人に焦点を当てるべきであるという本質は、未来でも変わらず通じる、と私は思っています。

こうして並べてみると、人の能力が伸びることへの絶対的な信念が感じられます。だからこそ、誰に対しても前向きな感情を引き出すことができるのだと思います。
素晴らしいリーダーは、出会う人を次から次へと前向きに変えていく。だからこそ、そうして成長した人が、リーダーを盛り立て、組織を成功に導いていく善循環が生まれる、そんなことを再確認させてくれた一冊となりました。感謝です。

 

 

 

 

感情をコントロールできるリーダーがチームを成功に導く(感情マネジメントを学ぶ)

EQ(感情知性)を取り上げた本の中で最も実践的で役に立つ一冊に出合いました。
ビジネスリーダーがチームメンバーの「感情・気持ち」を理解することの重要性をここまできちんと伝えている本はなかなかありません。
読み始めたら最後まで一気読み、それも付箋祭状態という結果となりました。

書名 感情マネジメント

    自分とチームの「気持ち」を知り

    最高の成果を生み出す

著者 池照佳代(株式会社アイズプラス代表取締役)
ダイヤモンド社 2021年3月31日

 

著者の池照佳代氏は、複数の外資系企業で人事畑を歩んでこられましたが、その後独立され大手企業の組織コンサルティングを行っておられます。
その経験の中で、優秀な人材がそろっているチームであってもなかなか思うように成果を上げられないこともよくあったそうです。

 

では、成果を上げているチームとの違いは何かと分析した時、リーダーが自分の「感情」とメンバーの「感情」を理解しているか、いないか、が大きかったということがわかりました。

そのため、本書で著者が訴えているのは、論理的に適切な順番で「感情」についての理解を深め、実際に「生の感情」に辿り着くための具体的な工夫(ノウハウ)を知り、実践してほしいということです。

章立ては次のようになっています。

第一章 チームは「感情」でつまづく

第二章 「感情」を活かせばチームは強くなる

第三章 「自分の感情」を知る

第四章 「メンバーの感情」を知る

第五章 「感情」チームビルディング

第六章 「感情」でつまずかない新しいリーダーの姿

 

冒頭で、つまずきの例を具体的に示して、どこに問題があるのかを示した上で、それを解決するヒントを順番に押さえていく構成になっていますので、無理なく読める工夫がされています。
実際に私が信頼構築をする上で、最重視しているリーダーの側の自己開示についてもポイントを押さえておられるので、著者が本当に実践者として話を勧められていることがわかり、安心感を抱くことができます。

また、重要な点は、あらかじめマーカーで強調されているので見落としがなくなると思います。

具体的な「感情」理解のためのツールをダウンロードできたりもしますし、学術的な論拠が必要そうなところでは、きちんと書籍の案内もあります。そういう点でも非常に行き届いた編集がされていると感心しました。

読み進むうちに、この本は、感情知性に出合った著者がどう変化し成長していかれたのかの物語にもなっていて著者への信頼が湧いてくるのが印象的でした。

あと、外資系企業からキャリアをスタートされていますが、現在のクライアントは日本の大手企業も多いので、海外のコンセプトにありがちな日本企業におけるミスマッチの問題もクリアされていることを付言しておきます。

以下、個人的に響いた箇所を厳選して取り上げさせていただきます(厳選しても20近くになりました)

・リーダーシップやマネジメントについて、どんなにスキルを高めて優れたメソッドを実践してもうまくいかないたった一つの原因、それが「感情」です。

・大切なのは、リーダーが自分の特性を知り、それを活かせるようにすることです。
・3つのステップ「自分自身をどう変えるのか」→「それによってチームにどう影響を与えるのか」→「ビジネスにどんな変化を生み出すのか」
・人は、想像以上に目の前の人の機嫌や状況、態度や言動に影響を受けるものです。

・「感情」は、誰もが抱く標準装備なのに、「自分の感情」はないものとして扱っている。
・感情日記(フォームダウンロード可)

・ムードメーター(ダウンロード可)
・「感情の予約」で心の免疫力を上げる
・リーダーが感謝を伝えない理由としてもっとも多いのは「照れくさい」というもの

・面談手法E-STAR(感情も同時に訊く手法)
・リーダーを対象にコーチングしていると、意識が「技」だけに偏っている人が圧倒的に多い(同感)

・チームビルディングの成否のおよそ半分がリーダーのあり方に、残りの半分がリーダーの関わり方に影響を受けます

・メンバーのアイデアをすくい上げることができなければ、そのチームはリーダーが考える発想がアイデアの限界になってしまう

・コンフリクト(対立)の正体は多くの場合、仕事の条件や解釈の相違ではなく感情的な対立です

・コンフリクトは、チームを構築する過程で必ず起こります。互いが思いを持って目的を達成しようとしているからこそ起こるのです。
・働き甲斐とは、「この会社で働くことで成長できる」「この会社で働いて楽しい」といった心の満足度や幸福度のこと

・今後は役職にかかわらず、メンバー一人ひとりが、「自分が仕事と人生のリーダーである」という自覚を持つ必要があります
・経営者本人は意識せずに自然にできている(もともとEQが高い)ため、重要性がわからない
・多様な価値観や視点があることを意識し、「違い」を「間違い」にしない

紙の本、kindleの本、両方リンクとつけておきます。

 

 

 

 


 

反省の習慣は、ビジネス成功の第一歩(二宮尊徳に学ぶ)

ビジネスにおいては、日々生じるいろいろな出来事に対して、お客様の目線で考え、お客様に役立つように判断できれば大体上手くいくようになっているものです。
ところが、上手くいかない時は、逆に自分にとって有利になるように考え判断していることが多いものです。

このことを、先哲、二宮尊徳翁は、ある人に向けて話しています。

 

ある知人が郷里に帰る挨拶に来た。その人物がいつもおしゃべりだったので次のように諭された。

 

お前は故郷に帰ったならば、人に説くくせは止めた方がよい。人に説くことを止めて、自分の心で自分の心に意見しなさい。自分の心で自分の心に意見するのは、ちょうど、自分の斧で、その斧の柄(え)になる木を伐るくらいに簡単だからだ。(手元に見本となる斧があるので、どれくらいの長さに木を伐ればいいのかすぐわかる、という意味)。

 

その場合、意見する心はお前の私欲のない心であり、意見されるのはお前の私欲ある心だ。寝ても覚めても、座っていても、歩いていても、私欲のない心と私欲のある心とは離れることがないから、どんな時も油断することなく意見をするがよい。

もし、自分が酒を飲みたいと思えば多く飲むなと意見し、すぐにやめればよし、やめないならば何度でも意見せよ。驕りの心が起こるときにも、安逸の欲が起こるときにも、同じように自分で自分に意見せよ。

すべてのことがこのように、自分で自分を戒めることができれば、これは最上の工夫である。

 

このように工夫を重ねたのち、自分の身も修まり、家もよく治まっていけば、それすなわち自分の心が自分の心の意見を聞いたことになり、そうなれば、そのときこそお前の説を聞く者も現れるだろう。自分が修まってこそ人に及ぶからである。それゆえ、自分の心で自分の心を戒め、自分が聞かなければ絶対に人に説くことはしないほうがよい。

またお前が家に帰ったならば、商売に励むことになろう。土地柄といい、代々の家業といい申し分がない。しかし、決して儲けようと思うな。ただ商道の本意を勤めよ。商人たるものが商道の本意を忘れれば、当座の利益を得たとしても、結局は滅亡を招く。よく商道の本意を守り努力すれば、財宝は求めずとも集まり、富貴、繁盛は計り知れない。(
二宮尊徳翁夜話37より)

考えてみれば、人間は崇高な心と本能的な欲の心を一緒に持っています。そのことを腹に入れたうえで、自分の判断と行為が、自分の良心に背かないように努めることができるようになることこそ人間の面目を保つことに繋がるのだ、という二宮翁の訓えには深く感じ入りました。

 

二宮尊徳翁夜話(37より)