アップルストアの売っているものは何か | 生命(いのち)を輝かせる言葉の森

アップルストアの売っているものは何か


日経BPの編集者が自ら編集した本をお薦めしているコラムがあります。
本日の紹介はその中の一冊、『アップル 驚異のエクスペリエンス』です。記事は2013年2月時点です。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/book/20130208/243508/?leaf_ra&rt=nocnt

(引用ここから)

 アップルといえば、もちろんメーカーです。先日発表になった2012年9月~12月の四半期決算によると、3カ月でiPhoneを4778万台も売り、iPadは2286万台も売っています。間違いなくメーカーです。しかしアップルは、直営店のアップルストアを運営する小売業者でもあります。

 アップルストアについて簡単にご紹介すると、日本国内には東京・銀座などに7店舗があり、世界には350店舗以上があります。そして、米リテイル・セイルズの調査によると、2012年の1平方フィート当たりの売り上げは、6050ドル(約54万円)で全米ナンバーワン。2位のティファニーの2倍以上を売り上げるぶっちぎりの優良小売店なのです。

 前置きが長くなりましたが、今回ご紹介するのはそのアップルストアについて書かれた本、『アップル 驚異のエクスペリエンス』です。本書の著者は、『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』を書いたカーマイン・ガロ氏です。この2冊に続いて、今回もワクワクしながら編集を担当させてもらいました。

高くても通いたくなるのはなぜか?

 アップルの製品は、もちろんアップルストアでなくても購入できます。家電量販店でも買えるし、ネットでも買えるし、むしろアップルストア以外で買ったほうが、安く購入できます。それなのになぜ、わざわざアップルストアで買う人が多いのでしょうか。著者のカーマイン・ガロ氏は、その秘密は、「素晴らしいアップル・エクスペリエンス(体験)を得られるから」だと説明しています。

 アップルストアの美しい店舗に入ると店員が明るい笑顔で出迎え、とても親切に対応してくれる。決して高い製品を売りつけようとはしないし、むしろ安い製品を薦められたりする。さんざん聞いても修理を頼んだら、場合によってはすぐに新品に交換してくれる――。

 こうしたアップル・エクスペリエンスを目の当たりにすると、アップルストアにまた行きたくなってしまうし、アップルのファンになってしまうというわけなのです。

「日本人のプレゼン下手を変えたい」から始まった

 カーマイン・ガロ氏の本の魅力は、アップルを単に素晴らしいと言うだけで終わらないところです。この特徴は、もともと『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』からはじまったカーマイン・ガロ氏のシリーズ、3冊に共通しています。

 『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』は、ジョブズのプレゼンが素晴らしいという話だけではなく、ジョブズのプレゼンを分析して体系化し、「普通の人でもできる」ように解説した本なのです。単にジョブズのプレゼンを絶賛する本だったら、私は編集を担当していなかったかもしれません。そもそもこの本を発行したきっかけは、日本の人たちを応援したい思いから始まりました。

 2009年9月、エバーノート日本法人の会長である外村仁さんが、米国で発行されたばかりの原書「The Presentation Secrets of Steve Jobs」を読み、私に日本での発行を勧めてくれたのが、このシリーズとの出合いでした。そのときに外村さんが言われたのは、「日本人は実力があるのに、プレゼンが下手で本当に損をしている。この本でジョブズのやり方を学んで、うまくなってほしい」という言葉でした。

 外村さんのこの言葉に私はぐっときました。私は書籍編集をする前に記者をしていたことがあったのですが、日本人社長のプレゼンでがっかりしたことが度々あったからです。現場の人が苦労してよい製品をつくっているのに、社長の原稿棒読みプレゼンが製品の良さを消してしまう。なんでこうなっちゃうのだろうと残念に思っていたので、外村さんの言葉に強く共感したのです。そこから、日本語版を発行する契約を経て2010年7月に発行したのですが、みなさんに読んでいただいて米国を上回る28万部超のベストセラーになりました。

「修復すべきはコンピューターではない、顧客との関係だ」

 『アップル 驚異のエクスペリエンス』に話を戻しましょう。この本にもアップルのようにお客さんをファンに変える法則がたくさんあり、これを実践できればほかの組織も「驚異のエクスペリエンス」ができるようになるというわけです。ここで本書に登場する法則を一つだけご紹介しましょう。それは、「従業員に権限を移譲する」です。

 アップルストアでは、従業員がそうしたほうがよいと判断したら、故障した製品をその場で新品に交換してくれるそうです。保証期間を過ぎていても、お客さんがうっかり水没させたり、落として液晶が壊れた場合などでも、です。担当者が上司と相談して数日後に届くということではなく、その場で、です。従業員に、その権限が与えられているというのです。

 目の前のお客さんの購入履歴や故障の原因などから、従業員が判断するのです。

 アップル製品は決して安くはなく、たとえばiPhone 5は、定価で6万~8万円もします。それなのに新品に交換するとは驚きです。ここで、カーマイン・ガロ氏は本書で最高にぐっとくる言葉を紹介しています。

「(アップルストアが)修復するのはコンピューターだけではない。アップルと顧客との関係も修復できる――アップルストアが開業して10年、アップルはそう学んだ」

 アップルは、従業員に権限を移譲して、目の前のお客さんとの関係をすぐに修復できるようにし、逆に強い関係を築いてきたのです。これは、業種や規模によらず、日本の会社や組織も学べるところだと思うのです。

(引用ここまで)

良い会社、風通しの良い会社というのは、会社のビジョンの通りに仕組みができていることです。
人を信頼し、成長させるためには、お客様の信頼が無くてはならない。
信頼を得るためには、体験を売る必要がある。
そのための権限は現場の人間に与える。
リッツカールトンの2000ドルルール(従業員の判断で1日2000ドル=20万円を使っても良いというルール)を思い出しました。

ではまた。