ローマ帝国が撤退した後、ブラリテン諸島は、ゲルマン系の諸民族の侵入を受け、 小国が 乱立する場所となりました。その中で、侵入者を撃退し一つの国をまとめたされる英雄、アーサー王をめぐる伝説が生まれます。このアーサー王が伝説の中の人物であったのに対して、イングランド王国の基礎を築いたアルフレッド大王は、数々の史実に裏付けられた業績を残した歴史上の人物であり、イギリスの歴史の中では唯一の大王とされています。今回は、この二人の王のことを扱うことにします。

 アーサー王は、侵入者を撃退することに成功し、モデルとなった人物が存在したことまでは確認されています。しかし、円卓の騎士 の物語や、ローマ帝国を再生だというお話や魔術師マリーンやら聖剣エクスカリバーらにまつわる物語は、千年近くの歳月をかけて語り継がれた伝説を、中世の終わりの頃の英仏関係を踏まえて、マロリーによってまとめられた物語でしかないようです。そして、アーサー王にまつわる史跡が創られ、聖地巡礼も 行われ続けています。また、アーサー王をめぐる伝説を取り上げた芸術作品も大量に作られています。その中には、夏目漱石の短編や近年の日本のアニメも含まれています。そして、アーサー王伝説は、イギリスの人たちのアイデンティティの根幹に 関わる物語とみなされているようです。

 さて、アーサー王が伝説の中の人であるのに対して、アルフレッド大王は、史料や作品を通じて存在を確認できる歴史上の人物です。アルフレッド大王は、イングランド南部にあったウェックス王国の9世紀後半の王です。スカンジナビア半島から来襲するデーン人 たちとしばしば交戦し、勝利を積み重ね、領土を拡大しました。そして、法律を整備したり、キリスト教会を再建したり、 『アン グロ・サクソン年代記』などの歴史書を

編纂させたり、ベーダの『イギリス教会史』を ラテン語から当時の英語に翻訳させたりすることで古英語の基礎を作ったりしています。従って、イギリスの政治の歴史だけでなく、イギリスの文化の歴史にも 大きな足跡を残していることになります。 このころ、イングランド王国は、まだ存在していないのです が、以後のイギリスの王たちは、この王と血のつながりがある人物ばかりとなっています。 

 そこで次回は、イングランド王国のなりたちを 辿ることにします。

 







 文庫で読めるのが奇跡の一冊


 夏目漱石のアーサー王伝説を題材にした短編を収録




アルフレッド大王が英訳させたものの翻訳