『森鴎外選集』第13巻(評論3)(岩波書店、1976年)を読みました。
岩波書店が出した新書版サイズの 『森鴎外選集』では、全部で21巻のうちの3冊を評論に宛てているのですが、この巻では明治32年(1899年)から大正11年(1922年)までに鴎外が書き公表した41編の評論と小掘桂一郎氏による解説が 収められています。 鴎外が小倉に転勤させられてから、亡くなる年までのエッセイの精粋を集めた一冊ということなります。
その中には、文人としての半生を回顧したもの、画家原田直次郎や二葉亭四迷のような 友人について の追悼文、「仮名遣意見」のような公的な見解を示したもの、マキャベリの『君主論』を縮約した「人主策」、
文学上の所見を明らかにした「歴史其儘と歴史離れ」、自然についての見解を述べた「サフラン」などの様々なジャンルに関するものが含まれています。
それらは、いずれも明治の終わりから大正にかけての日本語に対する鴎外のこだわりを示しているように思えます。鴎外の文明に対する見識が現れていて、文明批評家としての資質を示しているとも 思えるの です。
共産主義の淵源を辿り、西洋哲学の概要を述べたエッセイ「 古い手帳から」で締めくくりとなっているのは、鴎外の教養というものを象徴しているように思えます。