「めっちゃカツ丼食べたい」
ふとそんな衝動に駆られた。
バッと勢いよくソファから立ち上がると腹の肉は揺れて喜んでいる。さすがに怠け過ぎだろう。
我慢するにしろ日本と中国では大きな差がある。「行けば食べられる」という環境すらないのは堪える。愛しい人に会えないのと一緒だ。故に私は今とても辛い恋をしていると言っても良い。
ちなみに中国へ経つ直前にランチで食べたのもカツ丼だった。無意識だった。日本文化への未練か。カツ丼という料理の根底に日本文化との深い結びつきがあるのかもしれない。
揚げたての衣に繊細なダシの香り。敢えてサクサク感を殺してしまう実験的な発想を生んだ時代の背景はどんなものだったのだろう。
少しとろみの残った半熟の卵も新鮮でなければできない。半熟の卵ですら中国の衛生環境では満足に食すことができない。
今まで意識になかった米の質も、日本を出れば考えざるを得ない。中国米も慣れればどうってことないのだが、日本のもちもち感や甘みは皆無。
好きな食べ物は?と問われれば「ラーメンとカレーかなぁ」と答える。これら好物と、時々無償に…ハッと食べたくなるものが与える感動は違う。
「ハッと食べたくなるもの」とは、今まで胃は求めていたはずなのに中々意識に挙がってこなかったものだ。
本当は赤身のステーキとソースに浸ったマッシュポテトが食べたかったのに、何を勘違いしたか
「今日は焼き肉の気分だな~!!」と的を外すことがある。
それはそれで肉とサラダバーのポテサラを食べ満足するのだ。
鉄板焼きで高級肉と牛脂で炒めたガーリックライスが食べたかったはずなのに
「今日は焼き肉の気分だなー!!」と的を外す。
これはこれで肉とタレ飯で満足するのだ。
巨乳でヌキたくなりエロサイトへ飛び込む。
オカズを物色中に真実に出会うことがある。
若さ弾けるオッパイを物色中に場違いな小綺麗なおばちゃんに目が留まる。
ビビッと来るのだ。私がオッパイに求めていたのは「大きさ」ではなく母性と深い包容力だった。そんな女性に漬け込むリアルなドラマを付け加えるとなると…
正解は「欲求不満の寂しい人妻」だった。
今日まで私はカツ丼という最愛の人(最適解)に辿り着くまで回り道をしてきたと思う。
しかし辿り着いたのだ。
問題は会いに行くか、否か、だ。
私が住む深圳地区。実は家から徒歩30分圏内に2件の日本料理店が確認されている。
うち1件で一度ザルそばを食べたことがあった。茹で過ぎた蕎麦はブチブチちぎれ箸で啜ることが困難だった。
ツユに口をつけて乱暴に蕎麦をかき込んで、すぐに箸を止めた。ツユが醤油だった。
ボーっとツユを眺めて事態を整理した。まるで奈落の底を見つめているような気分だった。
奈落から申し訳なさそうにニンジンが浮かんできた。
塩分濃度が高い液体の中では重いものも浮かぶって聞いたな。
そんなことを思い出しながらお会計を済ませた。
以上の経験から、私は中国の日本料理の品質に警戒心を抱いている。私の外食リストからは抹消されているのだ。
中国のカツ丼。正体が余りにも不透明だ。
風俗HPの「めい/24歳/巨乳」程度の情報しかない。カツが豚肉かも怪しい。
ただ、考えたところで全て推測の域を出ない。私はめいちゃんに会いに行くことにした。
今回は私を醤油で殺そうとした店ではないところを利用する。
「フーユェ~ン フーユェ~ン ツィグ カツドン イグ!」
( スタッフ~ スタッフ~ これ カツ丼 一個!)
覚えた中国語でめいちゃんを指名した。
注文してからは早かった。
めいでーす
良い意味で期待を裏切ってきた。予想以上のビジュアルの良さに私は我を忘れ喰らいついた。
カツ丼だった。
カツは豚肉だし、玉ねぎも入っている。ちゃんとダシを使って卵でとじている。
条件はカツ丼だ。もう細かいことは考えない。ひたすらカツ丼をかき込んだ。
が、喉の渇きに我慢できずグラスの水を一気に飲み干した。
ダメだ限界だ。甘さが尋常じゃない。味付けが甘すぎる。後味が綿菓子と同じじゃないか。
舌と喉が灼け痺れている。確かにカツ丼のダシは甘い。それを理解して甘くしようとしてくれたんだろう。
しかしこの砂糖責めは健康被害を招く。
満足感が不在なのに身体を満腹感が支配する。
会計を済ませた。
バイ
