医療や介護の現場でよく耳にする
DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)
これは、蘇生(Resuscitation)を試みない(Do Not Attempt)ということを意味し、具体的には心停止しても心配蘇生を行わないという意味になります。
以前はDNRと言われていましたが、曲解されることが多いため、AHAガイドライン2000からAttemptが追加され周知されるようになった経緯があります
DNAR指示は本来、悪性腫瘍の末期など、CPRの適応がない患者が尊厳を保ちながら死にゆく権利を守るために「心停止時にCPRを行わないように」とするための指示です。
しかし、医療・福祉業界で長く仕事をしていると、上の文章のカギカッコの中だけが取り上げられて、前半部分がきちんと理解されていないなと感じることが多々あります。
以前、単発派遣で勤務した施設で十二指腸乳頭部癌のターミナル期の方がいらっしゃいました。
ご本人とご家族の希望を踏まえ、疼痛コントロールを最優先に対応していましたが、強い嘔気のため、医療用麻薬の内服が難しくなり、貼付薬に切り替えた頃。
嘔気に対しては、ナウゼリンの坐薬も併用していました。
その方が、食事の際に誤嚥して窒息。
スタッフからのコールを受けて駆けつけた頃には、顔色不良、口唇チアノーゼ、意識レベル二桁、SpO2は70%台…
これを見て年配の常勤Nsが言ったことは、今でもはっきりと覚えています。
「DNARを取ってるから何もしなくて良いです」
耳を疑いました。
DNARを取っていても、明らかにDNAR対象外の場合は救命処置を行うはずです。
僕は、常勤Nsを無視してすぐに吸引を行い、往診医に指示確認して酸素投与しながら救急搬送へ持っていきました。
常勤Nsとはかなり気まずい雰囲気になりましたが後悔は微塵もありません。
その後、その施設からの勤務依頼を断っているので、搬送された方がどうなったのかは分かりません。
これはかなり極端なケースなので、ここまではないにしても類似した場面に遭遇することはしばしばあるかもしれません。
また、尊厳と権利を守るためにCPRの適応がない患者に心停止時にCPRを行わないというのがDNARですが、意味を広く捉えると、同様の理由で「回復の見込みがない場合、積極的な治療は望まない」と解釈できます。
介護施設などでは結構多いですね。
ただ、ご本人とご家族、医師、施設長、看護職、介護職で医療面談を行い、「積極的な治療は望まない」と意思確認をしていても覆るケースは少なくありません。
癌のターミナル期で多いのですが、口からの摂取が難しくなり、尿量が少なくなり、皮膚色が変化し、意識レベルが低下して、SpO2も低下してとなると、胃瘻やTPN、薬剤投与とまではいかなくても「点滴をしてほしい」「酸素を投与してほしい」とご家族から要望が出ることは多々あります。
それは、そうですよね。
身内ですから。
点滴や酸素投与を治療と認識していなかったのかもしれませんし、認識していたとしても家族の変化を見て何もしないことに耐えられなくなったのかもしれません
ターミナル期の身体に点滴を入れることのデメリットを一般の方で熟知している方はそうそういないと思いますし
最初と状態や状況が変わっているので、要望が変化するのは当たり前。
医療・介護従事者と一般の方の認識にズレがあっても当たり前。
大切なのは、ご本人とご家族が心の底から納得できるまで何度でも何度でも話し合うことだと思います。
ご本人とご家族に寄り添いながら、本当の気持ちを引き出し、正しい情報を提供し、適宜介入や調整を行い、より良いゴールを共に目指していく。それが看護師としてできることかなと。
そのためには知識や技術だけでもダメだし心だけでもダメ。
知識、技術、心のすべてを高いレベルに持っていく必要があります。
まだまだ伸びしろがあるな、自分。
深く、繊細なテーマ、対象が命なので「絶対解」はありません。
恐らく、一生をかけて向き合っていくテーマになると思います。
今日はここまで。
いつになく真面目でした