俺は高校の頃から、身毒丸に興味があり、蜷川幸雄さんを気にしてました。
「いつか自分も蜷川さんの舞台に出れたら良いな、、。」
そんな夢を抱きながら、少年時代を過ごしました。後に音楽でデビューし、直ぐに蜷川さんの関係者と、ご縁があり出会えました。初めて会った日の事は、今でも鮮明に覚えています。
埼玉のとある居酒屋でした。
座敷の奥に蜷川さんがいました。
挨拶して五分位早々に、蜷川さんが一言
「彼で行きましょう!彼で」
呆気に取られる程に、直ぐに出演が決まった時は、嬉しさと驚きとコレから何がおこるのかという期待の渦の中で、心が震えてました。
稽古が始まり、自分の演技の下手さに打ちのめされる毎日の中で、蜷川さんは何故か優しく、あれ?蜷川さんって鬼の蜷川と聞いてたのに、、と思いながら稽古に励んでました。
後に蜷川さんは二度目の出演から態度か変わり厳しくなる事を、二度目の出演で関係者から知りました。二度目に呼ばれてからがいよいよ本番、、鬼の蜷川。
二度目の出演作品はシェイクスピアの「夏の夜の夢」でした。
当時、稽古帰りの蜷川さんが、俺の出ていたフジテレビの非婚家族を、たまたま自宅で観て「あれ?あいつ芝居良くなったな」と思って頂いたらしく、呼んでいただけた舞台です。
火の鳥とは打って変わり、厳しい喝を入れられる毎日で、とても充実した日々でした。
ある日の稽古の舞台のステージで、暗闇で恋敵と戦うシーンがあり、そこで暗闇を想像して、手で森を掻き分けながら、恋敵を探すシーンの時のエピソード。
俺の暗闇での必死さの演技が足りなく、
蜷川さんが
「おい!誰か竹竿持ってこい!!」
竹竿をスタッフが蜷川さんに差し出し、蜷川さんが舞台に上がって来て、
いきなり竹竿をステージ中央で振り回しながら一言
「マコト、さっきと同じ芝居をしてみろ!用意スタート!!」
竹竿が振り回される中、同じ芝居が出来る訳がなく、蜷川さんが
「マコト!いつこういう竹竿が当たるかもしれない、いやナイフとか凶器が当たるかもしれない所を、お前は彷徨ってるんだよ!!もっと想像力を働かせろ!!!さっきの芝居では全然危機感が感じれないんだよ!バカモン!!!」
と言って下さったのも、今となっては良い思い出です。
3ヶ月間シェイクスピアで日本を周り、最後はフランスでフランス人の前で舞台を演じれたのも貴重な体験でした。
蜷川さんは言いました
「フランス人に日本のシェイクスピアを見せるんだ!僕達が日本人である事を誇りに持ち、胸を張って演じようじゃないか!!」あの言葉、当時とても勇気づけられました。
その後も、久しぶりに蜷川さんに連絡を取り、映画「嗤う伊右衛門」に出演させて頂きました。
この作品のエピソードも話しておきます。
蜷川さんに久しぶりに連絡をある日取り、蜷川さんが京都で映画を撮ってると聞き、映画経験のない俺は
「蜷川さん!見学させて下さい!!」
と電話で直接お願いして、急遽京都に行ったのです。
着いて早々、蜷川さんが
「お前よく来たな笑」と笑顔で受け入れて下さり、楽しく刺激的な時間を数日過ごさせて頂きました。
見学の最後の日、映画撮影所の正門の前で、俺の帰りのタクシーが来るまでを、蜷川さんが見送ってくれた時の話。
「マコト?あの門の正面にボロい2階建ての家があるだろ?あの2階でな、俺がまだ役者を目指してた若い頃、お世話になった監督の映画を俺も、お前の様に見学に来て寝泊まりしてたんだよ?そんな俺も今では監督だもんなぁ~笑」
その誇らしげで、俺にもいつか頑張れば色んな可能性があると、遠回しに語ってくれた優しさ、一生忘れません。
東京に戻った俺は、蜷川さんに見学のお礼の手紙を書きました。
すると、その一週間後に蜷川さんのスタッフから連絡があり「マコト?あなた見学に来た映画、あなた出る事になったから、急いで京都来なさい!」
急遽京都に呼ばれて、自分が見学に行っていた、嗤う伊右衛門に出演する事になったのです。
正直あの時は驚きました笑
着いて早々に、蜷川さんの宿泊部屋に呼ばれ、蜷川さんに「おー、来たか、お前出す事にしたから、よろしくな!」
呆気に取られながらも、映画に初めて出れる喜びが、込み上げて来て、あの時は嬉しかったです。そして何よりも嬉しかったのが、俺の送った手紙を、ホテルの書斎の上に大事においてくれていた事。
本当に嬉しかったです。
映画の撮影が始まり、いよいよ自分のシーンになり、激しい緊張の中、何とか撮影を終えた最後のシーン終わり、
蜷川さんが「俺は才能の無い役者にはNoハグ。才能のある役者にはハグ。お前の今の演技は、、ハグだ!」
あの時の蜷川さんとのハグ忘れません。
情熱に情熱で返して下さった事忘れません。
他にも沢山思い出はありますが、長くなってしまうので、俺の中に大切に宝物として閉まっておきますね。
最後にお会いしたのはBunkamuraの楽屋の廊下でしたね、
笑顔でご挨拶出来て嬉しかったです。
蜷川さん、本当にありがとうございました。蜷川さんと出逢えた事、俺の誇りです。
蜷川さん、俺は今TOUR中で、どうしても会いに行けませんが、近々必ず会いに行くので待っていて下さい。
蜷川さんから学んだ事、年月を重ねて更に自分に染み込ませて、これからも生きて行きます。
最近、役者は遠のいてますが、またいつか役者としても必ず頑張ります!
蜷川さんを師と胸に。
本当に寂しいです。
でもまたいつか必ず会いましょう。
その時まで、さようなら
蜷川幸雄さんのご冥福心よりお祈り申し上げます。
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完