2010年11月25日初版。

茅田砂胡の作品としては珍しい、現代日本を舞台にした作品です。
やる気なし、根性なし、能力なしの事務所の所長が、凶器あり、指紋あり、目撃者あり、動機もありで現場不在証明なしの被告人の無罪証明を頼まれた!?
茅田砂胡の新境地!
と裏表紙にあるので探偵物、ミステリーだと思っていたのですが、読み進めるうち、首を傾げざるをえない展開になっていきます。

話の筋は、確かに有罪確実な被告人の無罪証明で、聞き込みをして情報を集め、推理をし、次第に真相に近づいていきます。しかし、その中心として動いているのは事務所所長、百之喜太郎(モモノキ タロウ)ではなく、依頼人に百之喜を紹介した弁護士の雉名俊介です。表紙、巻頭カラー、登場人物紹介、どれをとっても主人公としか思えない百之喜は、確かに重要な役割を担うのですが、とても主人公とは思えない。しかもその「役割」が、いっそ清々しさまで感じられるほどのご都合主義。

この作品のジャンルは、ミステリーといって良いのか悩みました。最重要部分がご都合主義ってのが問題ですが、小出しにされる情報を登場人物と一緒に考え、立てた予想がまた次の展開で裏切られ、そして次第に真相に近づいて、という流れはミステリー仕立てではあります。決して推理物ではありませんが、まあ、こんなのもありかな、と思い直しました。うん、ミステリーだろう、と。

後書きに、こんなことが書いてありました。
犯人捜しがメインの話ではありませんし、間違ってもミステリーではありませんので、お間違えのないようにお願い致します。
…訂正します。ミステリー仕立ての読み物です。聞き込みを続けるうちに明らかになっていく異常性、思考が100年前で止まってしまったとしか思えない旧家の人々の異星人ぶりを楽しむ作品です。見事な推理が展開されるとかは一切ありませんのでご注意ください。

祝もものき事務所 (C・NOVELSファンタジア)/茅田 砂胡
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