※ ネタばれは避けたつもりですが、本作を読むの確定なら、まずは読んだほうが良いでしょう。


上巻 平成14年1月1日初版、下巻 平成14年2月1日初版というわけで、10年前の作品です。前作『レディ・ガンナーの冒険』(平成12年4月10日初版)からは1年8ヶ月ですね。


主人公の少女キャサリンは、学校の図画の課題『その時、頭に思い浮かんだものを描く』で、前作の冒険行で一緒になった用心棒の一人、《蜥蜴》のベラフォードの絵を描いた。その絵を知った、とある秘密結社がベラフォードを捕らえようと動き出す。知らなかったとはいえ不用意に絵を描き、騒動の発端を作ってしまったと責任を感じたキャサリンは、小間使いのニーナ、《蛇》のヘンリーと共にゲルスタンへと出発する…


前作は題名どおりの冒険活劇でしたが、本作は一変して重たい話になっています。著者も下巻あとがきで

それにしても、今回の話はたいへんでした。いずれは書かなければならない部分ですから、いっそのこと早めに片付けておこうと思ったのですが、予想以上に厳しい話になりました。

と言っています。実際、読みながら、「これでラノベか~」と思いましたから。簡単に言えば、人間(無形種=ノンフォーマー)と異種人類(アナザーレイス)との種族問題です。それも、差別、嫌悪レベルではなく、排斥、根絶、魔女狩りレベルの。

人間のいた「東大陸」は500年前に海中に没し、生き残りは「西大陸」の東海岸に移住しました。その際、西大陸のアナザーレイスは人間を寛大に迎え入れ、そこにいたアナザーレイス達は場所を譲った、ということが作中語られています。そして120年前、人間とアナザーレイスは戦争となり、人間は負けたことも。

この物語では、人間は決して強者の位置にいません。様々な動物に変身するアナザーレイスと、よく言えば共存している状態です。状況としては共存していくほかないのですが、当然、相手をよく思わない者も存在します。前作でも事件の根底には種族問題、種族差別がありましたが、本作ではそれが更に色濃く、直接的になっています。キャサリン、ニーナも巻き込まれますが、その時のハラハラドキドキ感はたまりません。その後の展開は「ちょっと待て」と突っ込みの入る、茅田砂胡テイストが溢れたものになりますが。

茅田砂胡の作品はどことなくコミカルで、そのくせ、時々容赦がなくなります。本作のラストはその容赦のなさが際立ちました。主題は重たいものですが、冒険活劇として面白い作品です。少々ご都合主義的なところもありますが、お勧めの一冊(?)です。

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前作の書評を書いた時点では、アナザーレイスは動物が種で人間形が従の関係だと思っていたのですが、逆でした。「異種人類」というくらいですから、当たり前ですね。


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