帯には『幕府の秘密文書による生々しすぎる大名の素顔。』の文句。裏表紙には『各種の資料も併用しながら、従来の評価を一変させる大名たちの生々しすぎる姿を史学界の俊秀が活写する歴史エッセイの傑作。』 の文字。ここから想像させるのは、『誰々は、一般にはコレコレな人物として認識されているが、実は・・・』という感じの本だろう。実際には、一部はそういった場合もあるが、全体としては戦国末期から元禄期の武将、大名の軽めの人物伝である。

取り上げられているのは以下の8人。

徳川光圀、浅野内匠頭、大石内蔵助、池田綱政、
前田利家、前田利常、内藤家長、本多作左衛門

このうち、浅野内匠頭、大石内蔵助は二人で一章、前田利常は一人で三章使っている。先の、『誰々は、一般にはコレコレな人物として認識されているが、実は・・・』に該当するのは、徳川光圀、浅野内匠頭、大石内蔵助の二章三人である。

『土芥寇讎記』(どかいこうしゅうき)という元禄期に書かれた書物から幾人かを抜き出し、他の資料とも使って、大名の生活を書く、という趣旨の前書きがある。この『土芥寇讎記』が帯にいうところの「幕府の秘密文書」なのだが、全員が全員この文書に基づいているわけではなさそうだ。前書きによれば、『元禄三(1690)年ごろに書かれたもので、当時の大名243人の人物評を載せた稀有な書物』とある。前田利家、前田利常、内藤家永、本多作左衛門はもっと前の時代の人物であり、含まれていないだろう。

以上のように、本書のウリと思われる内容のほうが実は少ないので、それを期待する向きには残念ながら期待はずれとなると思う。しかし、『歴史エッセイ』としては実に面白いと感じた。著者は複数の大学で准教授職にある歴史学者だが、文章は平易で読みやすく、時にユーモラスな表現が顔を覗かせる。史料からの引用も多数があるが現代文に読み下しているか、そうでなくても気にならないレベル。

手軽に読める歴史エッセイとしてお勧めの一冊だ。

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