【わが社のオキテ】

 半年に一度、優れた成果をあげた社員に対する表彰制度を設けている機械部品製造業の太陽パーツ(堺市北区)。同じような制度を設けている企業は珍しくないが、最も顕著な功績を挙げた社員に贈る「社長賞」とともに、「大失敗賞」を設けているところがちょっと違う。「大失敗賞」の受賞者も、社員全員を前に社長から表彰状を受け取るという。社員はいったいどんな気持ちで“栄誉”を受けるのだろう?

 「大失敗賞」はその名の通り、大きな失敗をした社員に与えられる賞。もちろん副賞もつく。金一封1万円。失敗をほめられたうえに1万円とは…。もっとも、ただ単に失敗すればもらえるわけではない。ここがこの賞の賞たるゆえんである。「大失敗賞」の選考基準は、何か新しいことに挑戦したうえでの失敗であること。たとえその失敗によって会社に幾ばくかの損失を与えたとしても、「会社は失敗を乗り越えるノウハウを得たことになり、今後の事業展開にとってプラスになる」との価値判断がこの賞のカゲにある。

 「もちろん挑戦して成功すれば一番いいのですが、何もしないよりは挑戦して失敗する方がいい」と総務部の山根数豊さん。「失敗したからといって、代わりの人材もいない。一度失敗しても、次は活躍してほしい」と話す。社員が少ない中小企業にとって、人材を大事に育てたいという思いも込められている。

 「大失敗賞」第1号は19年前の平成5年にさかのぼる。“栄冠”を手にしたのは、当時30代半ばの課長職の社員だった。彼は新たに自動車関連用品の事業を拡大しようと、自ら中心となって企画を練った。どんな商品がいいのか、どうやって売るのかなど思案を重ねた結果、車用の芳香剤やカップホルダーなどを製品化し、カー用品店に販売した。当初は大手用品店に販売が順調に進み、手応えを感じていたが、半年後、売れ残った大量の商品が返品され、あっという間に在庫の山ができた。この「大失敗」によって約5千万円という、当時の同社の1年間の利益が吹っ飛ぶような大損失を出してしまった。

 この「大失敗」の原因は、業界特有の商習慣を理解していなかったことだった。そして、このときの経験から、同社は新規事業に進出する際には、しっかりと事前に市場をリサーチするノウハウを得た。受賞した男性社員はこの失敗を見事に生かし、同社が中国に進出する際は現地法人のトップとして活躍するなど、その後、多くの功績を残した。現在、役員として経営の中枢を担う存在になっている。「大失敗賞」の授賞式の際には、城岡陽志社長が「これでチャラだからな」などと声ををかけてその場を笑い飛ばすなど、社員の性格や失敗の内容を考えながら、失敗を引きずらないように気をつけている。「この制度のおかげで、失敗を恐れず、挑戦する社風につながっています」と山根さんは話す。

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