世界中の旅行者から、「最後の秘境」「シャングリラ」と評されるブータンは、ヒマラヤ山脈の東端にある仏教王国です。
国土のほとんどを覆う山岳地帯には、手つかずの大自然が残されており、世界で最も小さい国の一つであるブータン文化の特徴は、多様性とその豊かさにあります。
それでは、ブータンのお葬式をご紹介します。


ブータン独特の文化や習慣は?

都市部では近代化により食習慣が変化していて、ダイニングテーブルと椅子を使い、スプーンで食事をしていますが、伝統的なブータンの食生活は質素で、食事は手を使って食べます。
家族は木の床に足を組んで座り、まずは一家の長から食事が出されます。
通常食事は、お米と、エマダツィという唐辛子が入ったチーズの料理、豚か牛のカレー、豆等です。
食べる前には、一口分の食事を精霊と神へのお供えとして木の床に置きます。

ブータンの仏教は、風の宗教というイメージを持つ人もおり、旗はブータンならではの風景です。
ブータンやチベット文化圏には、様々な旗を掲げることが多く、色は白だけでなく、私達が生きていく為に必要な自然界の五大要素(フィフスエレメント)を象徴した5色の旗や、経典が書かれた旗、仏教のシンボルの旗などがあります。
「仏教の教えが風にのって遠くまで伝わるように」と言った考え方や、「その祈りは国境や国家を越えていく」というようなイメージととらえることができます。
都市部の一般家庭では、その家の経済状況に見合う仏間がしつらえられます。
またブータンで大きな病院の待合室の中には仏壇があるところもあり、日本人の感覚からすると少し驚くような光景です。
ご先祖様という考えがないので、仏壇には位牌がありません。
お祈りするのは、お寺と同じようにお祀りしている仏教の仏様や菩薩様たちです。
占星術や占いが人々の生活に深く浸透していて、人生には必ず2度占い師のところへ相談に行くといわれています。
それは生まれた時と亡くなった時です。
赤ちゃんの健康を祈り、お寺で名前を授けてもらいます。
そのためブータン人の名前は仏教にちなんだ名前がとても多いです。
また、ブータンは魔除け文化の国でもあり、首にスンキという仏様パワーの宿った紐を身に着けている人もいます。

 

宗教と宗教徒・言語の関係は?

民族はチベット系8割、チベット系、東ブータン先住民、ネパール系を合わせて2割の多民族構成からなる山岳地帯を中心とした場所に位置する国です。(外務省HP 2011年国勢調査より出典)
ブータン国内は、20の県(ゾンカク)に分かれて治められています。
各県の県庁には基本的にゾン(城砦)があり、聖俗両方の中心地(行政機構、司法機関及び僧院)として機能しています。

公式には、チベット語系のゾンカ語が公用語である他、ネパール語と英語も広く使われています。
1949年までの長い間イギリスの保護国であったことから政府の公式な文書などは英語で書かれており、英語は準公用語的な地位にあります。
また、ほぼすべての教育機関が英語を教授言語(ゾンカ語は国語という科目名で教えられている)としています。
これはゾンカ語が仏教関係以外の語彙に乏しく、教材としての内容に不足が生じていることや、ブータン人教員の不足のために隣国インドから英語を話す教員を大量に雇い入れる事が容易だったことによる結果という側面でもあります。

こうしたことから、生まれてから死を迎えるまでの一生を通して、チベット仏教を中心とした生活習慣や基盤が築かれていき、葬儀の典型はチベット仏教の風習に則ったものだと考えられます。
また、家族や親戚の単位の葬儀としておこなわれるのが主流です。
また家族と同様に職場の人の冠婚葬祭もとても大事にします。
 

ブータンのお葬式、お墓の基本的な考え方は?

ブータンでは死後、ご遺体は火葬し遺灰は主に川に流します。(高僧などの場合は、火葬しない場合もあります。)
また、ブータンにはお墓を作る習慣はありませんが、14日後の法要に見晴らしの良い場所や丘、縁のあった場所に、大きな長い白旗(マニダル)を建てます。
(インドのシッキム地方などではダルシンとも呼びます。)亡くなった故人を偲び、108本のマニダルを立てます。
21日後の法要は、故人の写真やお坊さんによって書かれた尊格の絵を燃やします。
死後すぐに解脱するか49日以内に生まれ変われない場合は、来世は厳しい世界となるため、早くより良い世界に生まれ変わって欲しいと願います。
また、これは2度目の火葬としての意味合いを持つそうです。

各地方で執り行い方は様々ですが、14日または21日までは僧を自宅に招いての法要が多く、それ以降はお寺で行うことが多いです。
財力があったり、家柄によっては最大49日までの法要を毎日続けて行うこともあります。

ブータンでは乳幼児や子供、大人になっていない10代の少年少女が亡くなった場合は、空葬(鳥葬)を行います。
輪廻転生の死生観が大きく関係しています。
鳥葬は、なかなか誤解されやすい文化の違いですが、英語では空葬(Sky Burial)と訳されています。

亡くなった方の遺灰は、一部を土と混ぜ、ツァツァと呼ばれる小さな仏塔を置く習慣もあります。
遺灰を混ぜないで土だけで作ったツァツァもあります。
・ブータンでは亡くなられた後、僧が暦と占いにより火葬日を決めますが、数日後に行う場合もあります。
日本も友引の日にはお葬式を行いませんが、それと似ています。
場合によっては2週間以上待つ場合もあります。
家で看取った場合は家で、病院などで最期を迎えた場合は家の外にテントを建て、火葬の日まで安置します。
占いによってご遺体を向ける方角も決めますが、もしその方角に扉が無い場合は家の壁を壊すこともあるそうです。

 

どのように葬儀や法事が執り行われているのでしょうか?

お葬式の習慣も、ブータン各地の場所や宗派によって異なるためブータンのお葬式は、ケースバイケースですが
命日から数えて、
4日後:Shudu
7日後:Don Tse
14日後:Chuji Tse
21日後:Nishe Tsa Chi
49日後:Zhab Chu zha gu
それぞれの日に法要を行い、49日後の次の法要は1年に行います。

お葬式の際に燃やす「ス」と呼ばれるものがあり、チベット圏でよく食べられているツァンパ(麦とバターをこねて主食とする)に似ています。
これはほとんどツァンパと同じで、麦粉とお茶(または茶葉)、バターと塩を混ぜたものでお葬式会場の入り口付近で燃やします。
悪霊や悪いものが入ってこないように、ずっと燃やし続けます。
お香とはまた違う、少しこうばしい香りがします。
このスのまわりに、時々水をまきます。
お寺に行った時に、仏壇に聖水をかけるのと同じ手順ですがこれも魔よけ、清める行為ですね。

ブータンのお葬式や法要では、だいたい15~20人のお坊さんが来ます。
しかも、読経は早朝夜が明ける前から、日没まで続く場合がほとんどです。
お坊さんにも位があり、法要の際に一番高い位に位置するお坊さん、チベタンホルンや人の大腿骨で作った笛、鐘を読経しながら扱う方、仏間と僧の間を取り仕切る役などを含めるとどうしても10人以上になることがほとんどのようです。

参列者も、家族や親戚、友人、同僚などが集い、法要が行われている堂内で一緒に読経したり、隣の間で参列者に配る小銭を用意したり、台所で食事の用意をしたり、テントや別の部屋で参列者やお手伝いの方の相手をしたり、バターランプを灯したりと、10時間以上に及ぶ法要は、堂内以外では常に緊張しているわけではなく和やかなムードもあり、その間はお堂の中は自由に出入りをすることができます。
 

ブータンのお葬式システムは?

日本や他の仏教国と同様に、互助会のようなシステムが機能しています。
お葬式に必要な食器類やテーブルや座布団は地区に1つあれば事足りますし、何よりその名の通り「お互いに助け合い」でご飯の炊き出しに必要な協力体制がありました。
しかし、自宅でお葬式をあげる割合も減ると、解散も自然の流れになります。

供養は日本と同じような習慣の部分もあり、法要に行く時はビールやミルク、ジュースやバターランプのバターなどを持っていくことが多いです。
お手伝いに来てくれた人、参列客にはお昼ご飯、お酒、スナックなどが振る舞われます。

僧侶達へのお布施は、葬儀で数百万円近く、また49日までのお参りにも数百万円近いお金が掛かるそうで、ブータンの人たちの所得は、日本人の約1/10くらいと推定すると、一生で稼ぐ所得のほとんどを葬儀のために使うことになると推測できます。
日本の僧侶が知り合いのブータン人にこのことについて尋ねたところ「ブータンの人は、自分の一生の間にその為のお金を貯めておきます」と言う答えが帰ってきたそうです。 
「死んだら私達の生命は仏様の世界に帰り、そしてその後は、仏様の世界で永遠に生きて行きます。別の言い方をすれば、仏様の世界で永遠に生きて頂く為の生活費を仏様に預けるのです。」
このように生命の尊厳を最も重要視する考え方については日本人が忘れがちなことで、頭が下がるといっています。

お葬式では、親族や縁のある人達が参列者に対して、小額のお金を渡します。
これも功徳を積む一つとされています。
また輪廻転生の観点から、ブータンでは霊柩車に出会うことは幸運のしるし、と考えられています。
 
※インターネットで集めた情報になりますので、事実と異なる場合があります。