「櫻井くんには今後も期待してるよ!」






「はい!部長!」







パチパチ~







拍手の中、女性社員から熱い視線が…









「課長ですって!さすがですよね~」






「櫻井さんだもん~当然だよね~」






「あぁ~彼女さんが羨ましい~」






「私たちはこうして同じ部署で

働けるだけで幸せだよね~」






「毎日目の保養になるしね~」








…って、それ全部聞こえてるから。








だけど聞こえていないふりをして

さっと笑顔を向けると…






「きゃ♡」





「今日もイケメン♡」









そう、俺は男性社員から慕われるだけでなく

女性社員からは憧れの存在なのだ。








この容姿で生んでくれた両親には

感謝しかない。







そして、物心がつくか否かの時に、

俺を慶應義塾幼稚舎へ入学させて

大学まで通わせてくれたからこそ、

俺の今の地位がある。







いや、俺の努力あってこそか。





ふふっ。









仕事も順風満帆で29歳という若さで

課長にまで登り詰めた。







しかし…俺に足りないものがただ一つ…






そう、それは……















ブスッ!






「痛っ!」






「櫻井カンチョ~(課長)!」






「っ、お前っ!!!」







トイレで用をたしていると後ろからケツを…!









「俺んとこの部署まで

翔ちゃんの話題で持ちきりだったよ!」






「……会社でその名前で

呼ぶなって言ってんだろ。」






「くくっ。」








「ったく…相変わらずだよな、お前は。」






「ん?なにが?」







「…なにがじゃねぇよ。

ニノは出世したいとは思わねぇのかって!」






「全く興味なし。」







「…ホント気が知れねぇ。」








「今どき珍しいよ、

翔ちゃんみたいなタイプ。」






「え?なにが?」







「俺もだけど、後輩くんたちは

仕事よりプライベートの方が大事だかんね。」








「……プライベートねぇ。」







「で?…彼女は?最近どう?」








「よっ。」







俺はチャックを閉めてその場を離れた。









ジャー…







「その間は…またフラれたね。くくっ。」






「っ、うっせぇ!」







「社内の女子が聞いたら驚くだろうなぁ。」






「…フンッ!」








俺は濡れた手をニノに向かって振り

水飛沫をわざと飛ばした。









「そういうとこ!」






「は!?」





「ハンカチ一つ持ってないダラシナイ

男だってどうしてバレないかねぇ~」







「っ、持ってるわ!」








俺はポケットに手を突っ込んだ…






クシャ…






「あっ…」







「うわ!最低!不潔~!」







「っ、黙れ!」