こんな偶然…運命としか思えなかった…。








土曜日の夕方、ファミレスのバイトが

もう少しで終わるって時だった。







空いている店内に

1組のカップルが座っていた。







その男の子の顔を見て…

一瞬心臓が止まったかと思った。







そこに居たのは…






中学の時の一つ上の…

大野智くんだったから。







大野くんは俺の憧れの先輩だった。









普段はヤル気のなさそうな猫背で

ナヨナヨした見た目なのに…






体育では別人のような活躍をしたり

絵画や書道で賞を獲ったりするような

人だった。








目敏い女子はそんな大野くんのことを

ほおっておくわけもなく…






だけど大野くんはいつも

男子とつるんでいて女の子と

付き合ってる感じでもなかった。








一つ年上ってこともあって

中学時代は大野くんとは

話すらできないまま卒業してしまった。







そして、大野くんは地元の高校へ…






俺はその後、私立の男子校へと進学した。














男子校に通うようになって2年目だ…






あの大野くんが……





うちのソファに座っている…







ドキドキ…







無理やり家に連れてきて…






俺は一体なにを考えているんだ…







きっと大野くんも戸惑っているはず…












「なぁ?」





ドキッ!






「え!」






大野くんがダイニングテーブルで

染み抜きをしている俺の方を見た…







ドキドキ…






「櫻井って…なんでそういうこと…できんの?」






「えっ…これのことですか?」





「そう。」






「えっと…実家を出てから

なんでも自分でやらないといけなくなって…

それで…いつの間にか?」







「へぇ~…櫻井ってしっかりしてるんだな。」






ドキッ…








「…しっかりしてるかどうかは

疑問ですけど…従兄弟がなんでも

できる人だから俺も色々習って…

それで最低限のことはなんとか。」







「十分しっかりしてるよ。

高校生なのにすげぇな。

ま、櫻井は真面目って顔に書いてあるしな。

んふふ。」






ドキッ!






大野くんが…笑った…










「…櫻井?」






「あっ!えっとあとは乾かすだけ!」






「どやって?」





ドキッ…






大野くんが寄ってきた…







「っ、ドライヤーで…」






「おぉ!すげえじゃん!真っ白になってる!」






ドキッ!






大野くんと…

こんなに近付いたのなんて…初めて!






っ、息が…できない!








「櫻井…?」






「あっ!ごめんなさい!」





「なに謝ってんだ?」






「っ、あ!ホントだ!」






「んふふ。櫻井って…面白いな。」






「えっ…!」






「なんて言うんだろ…あ!わかった!」





「え!?」






「櫻井って犬みたい!」






「っ、い、犬!?」