立位の前にステップ? | What a wonderful world and life

What a wonderful world and life

イギリスでの生活や、大学院の授業、そしてphysiotherapyについて

だいぶと前回から空いてしまいました。
今回は
Stepping before standing: hip muscle function in stepping and standing balance after stroke
立位の前にステップ:脳卒中後のステップと立位での股関節筋の役割
17名の片麻痺患者群と、16名の健常群を比較した研究です。
測定には表面筋電図(SEMG)を使用し両側中臀筋、長内転筋を測定。
片麻痺患者ではMVC(maximum voluntary contraction)実施が難しいので、歩行の開始を標準としている。されに、床反力(外転トルク)、骨盤の偏位を測定
測定は Sideways push trials(横に押される) とSTEPPING時に行われた。

(結果)

Sideways push trials時: 
右側へ押された場合、健常群ではまず、右中臀筋が活動し、次に左長内転筋が活動。
片麻痺患者が麻痺側へ押された場合、麻痺側中臀筋(活動開始は健常群よりも遅い)の活動は小さいが、非麻痺側内転筋の活動が優位に大きい。非麻痺側へと押された場合には、非麻痺側中臀筋の活動は少し小さく、また潜時が長い。麻痺側内転筋の活動は小さく潜時が長い、もしくは反応が見られない。

Step時:健常群:まずスイング側の中臀筋が活動し、対側の長内転筋が活動する。下肢の挙上と共に支持側の中臀筋、対側の長内転筋が活動する。踵接地時には中臀筋、長内転筋が活動。自分で重心移動を起こした際の筋活動は押された場合の筋活動と類似している。
右片麻痺患者の場合、右下肢をステップする際、または右に押された際にまず活動するはずの右中臀筋の働きが非常に小さい。
左下肢をステップする際、または左に押された場合の非麻痺側(支持側)の内転筋の活動が健常軍に比べると小さい。しかし、傾向としてはステップ時の方が、健常群での筋活動と類似している。

考察:押された場合には非麻痺側の内転筋の活動がコントロール群に比べると大きく、またできるだけ早く活動している。これは麻痺側の弱い、または遅れた筋活動を代償しているためと考えられる。
ステップ時にはより、正常に近い活動が見られるので、押された場合とステップ時には違うメカニズムが関与していると考えられる。

(感想)
まず、EMGのnormalizationの手順がこれでOKなのかがまだ知識不足の私には不明です。この手順で標準化出来ているのであれば、データとしては使えるのかもしれません。MVCは片麻痺患者では困難ですので、参考になるかもしれません。とりあえず、私はEMGのnormalizationについて調べないといけません。

押される課題の場合には、外乱刺激に対して、より皮質で下肢の支持をコントロールしているのかもしれないと考えました。
ステップの課題の場合には、より自発的に麻痺側への重心移動も行われているので、駆動させる経路は異なるのかもしれません。
また、考察されていませんでしたが、麻痺側をステップするとき、またはそちらの方向に押される時に本来起こるはずの中臀筋の活動が出ていません。

では、治療的にはどうなのか?
下肢の支持性を向上させるために、単純に麻痺側への重心移動を行うよりも、ステップ課題の中で中臀筋、内転筋etcの活動を促す方がよいのか?

外乱刺激に対して、予測的に麻痺側下肢の支持を意識すること自体が構えを作り、時には恐怖感を生み出してしまい、通常の活動と異なる反応を生み出しているのであれば、立位でのバランス練習でも、より小さい刺激の範囲内、または自発的な重心移動(恐怖感が出ない範囲など)であればどうなのかとも考えました。以前紹介した論文でも、恐怖感が生じる場合にはヒラメ筋の活動が変化するなど、情動の部分からの影響も出る可能性があります。

また麻痺側下肢のスイングの際にも、支持側への重心移動に関連する麻痺側中臀筋の活動は低下していますので、誘導する際には考慮すべき点かもしれません

なんにせよ、タイトルにある立位の前にステップというのはこの結果からだけではちょっと不十分ではないかと個人的には感じます。


これを読んだあと、個人的にはタスクのなかでの下肢の筋活動が気になりました。下肢に対して注意を向けず、課題に対するプログラミングが起これば、起こる筋活動も異なるのではないのかなと。そういう論文があるかどうか探してみます。