允浩はすぐに天部の始源へと文を書いた
始源は天部の衛兵長であり本来なら皇王に仕える立場にあるが、皇王亡き今彼らを統治する者はおらず
白虎の神獣を持つ武神、曺承佑が兵達を取り仕切っていた
まるで自分の兵であるかのような曺承佑の振る舞いをほかの神達は何も言いはしなかったが、決してよく思っているはずもなく
それを知っている允浩は始源への文の中に
『この文を北の梁美京様、西の宋承憲様、東の曺承佑様の前で読み上げるよう頼みたい』
と記した
そうすることによって平等に伝えられるだけでなく、手紙の内容はもとより、その手紙の有無すらも握りつぶされないよう注意を払ったのだ
「手紙にはなんて書いたんだ?」
「私と昌珉は天蓮鄉へ上る、しかし自分達の足で上りたいから迎えはいらないと書いたんだよ
そして、しばし時間を貰いたいとも」
「天蓮鄉って遠いんだろ?」
「そうだな・・・とても遠いよ」
「なら楽しみだねっ」
「ふふ、そうだな」
允浩と昌珉は必要最低限の持ち物だけをまとめて、残していくものは綺麗に片付けた
そして二人は長く過ごした家を出たのだ
「さあ昌珉、礼をして行こう・・・私達を守っていてくれた家だ」
「そうだよね・・・俺が来るよりずっと前から允浩とナギを守ってくれてたんだもんな」
「そうだ・・・」
二人は屋敷に向かって深くお辞儀をし、門を出た
そうして山道を登って行く
ナギの墓へと
「ナギ・・・俺達が行っちゃったら寂しくないかな・・・」
「大丈夫だ、ナギはいつも心の中にいる・・・違うか?」
「いる・・・いるけど・・・」
「それに私は毎年菜の花を見るとナギに話しかけられているような気がするんだ
菜の花は、きっと旅路にも天蓮鄉にも咲くだろう」
「そっか・・・そうだね・・・!」
「大事なのは、心の中でいつも想うことなんだよ」
「うん・・・」
「今日ここへ来たのはな、出立する前に花を手向けたかったからさ」
「菜の花は帰ってきた時に持ってこようね!」
「・・・そうだな」
二度とここへは戻っては来られないかもしれない・・・だがいつもいつも想っているよ
と、允浩は密かな思いをナギへと心で語りかけていた
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