オアフ島ミリラニの山火事は、10日間にわたり、1630エーカー(660ヘクタール)を延焼。
まだ完全消化には至っていない模様。
ちなみに、ラハイナの延焼面積は2170エーカーに及んだらしい。
実はハワイ、山火事が増えていて、毎年相当な土地面積が被害にあっているという。
ラハイナの火災の後、Wildfire Prevention Working Group という政府内グループが、山火事の原因追究と将来の予防策を検討する目的で組成された。
11/1 までにドラフトを、12/15までに最終レポートを提出するという課題があてられており、そのドラフトがリリースされたので、読んでみた。
山火事、山火事、と山火事の話題が増えてきた近年。
ハワイの現状と抱える問題、これから何をしようとしているのか、関心のある方はどうぞ。
【要旨】
ハワイでは、山火事の危険が増加している。
過去数十年で、大規模な土地の利用法が大きく変わり、気候変動の影響も加わり、山火事の大きさや激しさは劇的に増えた。
悲劇的な火事の主な要因に対処し、土地管理の規模を大幅に高め、脆弱なコミュニティのの耐久性を高める大胆な策が必要だ。
【所見】
1.ハワイで山火事の脅威が増大している
山火事による年間焼失面積は、1904年から2022年の間に300%増加。
2006年からの10年間で、州全体で約1,000件の山火事が発生、年間平均20,000エーカーが燃えた。
《以下のグラフは、1900年からの牧場や農地の減少と年間焼失面積を並べたもの》
1000エーカー以上の大規模な火災が、毎年複数回発生している。
毎年、ハワイ総面積の約0.50%が火災に見舞われており、これはアメリカ本土全体の火災面積の割合 (0.30%) よりも大きく、火災が多発している西部の12州全体の火災面積の割合 (0.46%) よりも大きい。
火災に脆弱な多くの地域は、数多くの絶滅危惧種にとって重要な生息地であり、山火事によりその種が絶滅する可能性がある。
火災後の大雨は浸食、表土の損失を引き起こし、植物が生育しづらくなる。
火災後の浸食により川に堆積物がたまり、それが最終的には海に堆積する。これにより、サンゴ礁が窒息、沿岸の水質、漁業、長期的なサンゴ礁生態系に多大な影響が及ぶ。
重要な流域が失われ、土壌が燃えたことにより、帯水層のリチャージが減り、飲料水源に影響を与える。
2.ハワイでの山火事の原因
山火事の 99% は人間の着火によって引き起こされる。 自然発火は非常にまれで、落雷原因は0.2%未満とされる。
事故的な発火原因 (75%) は、キャンプファイヤー、機材、車両、切れた電線、花火など。
《75%以外の人為的原因は、放火あるいは放火疑いということか》
ハワイの総陸地面積の26% (約 1,000,000 エーカー) が、火事になりやすい外来種の草や低木で覆われている。
これらの植物(Guinea grass / Fountain grass / Molasses grass / Buffelgrass)は、容易に発火し燃え広がりやすい燃料となり、火災後は多くの在来植物よりも育ちやすい。
《↓うちの裏山もこれがびっしり》
(写真借用)
(写真借用)
燃えるたびに燃えやすい外来種が繁殖するという悪循環が悩ましい問題。
《在来種の木々が無くなりこういう草が繁殖したのが下の写真の状態。見るからに燃え広がりやすそう。。》
(写真借用)
気候は山火事の発生と被害規模の中心的な決定要因であり、気候変動は火災増加と関連付けられている。気候の温暖化と乾燥、さらにエルニーニョ現象の頻度と強度増加により、干ばつ状態が発生し、山火事の問題が大きくなっている。
3.予防と対応策、現在の課題
ハワイ州は他州に比べ山火事の予防対応の予算が少なく、過去10年間の年間平均予算は 320万ドル(住民1人当たり約2ドル)。ワシントン州では平均8,300万ドルを充てており、住民1人当たりにしてもその2倍以上。カリフォルニア州は住民1人当たり21ドル、8億4,300万ドルを確保している(2022年)。
農地利用の減少により、以前は消火活動を支えていた道路、水源、設備の維持、またそれらへのアクセスが減少した。
以前農地だった場所に住宅が広がり、山火事は人命に対する脅威となっていることに加え、以下の問題を抱える地域も少なくない。
* 町へ出入りする道路がひとつしかない(それが通行止めになると出入りができない)
* 配管パイプや消火システムが時代遅れ、あるいは過負荷。
* 狭い道路、消防車がUターンできる場所が少ない
2014年の山火事危険評価では、ハワイの住宅街の2/3において出入りに1本道しかないことが判明。
ハワイ州は、建築物に、山火事に対応した建築基準を採用していない。例えば、耐火につながる材料や建設技術の使用や、建物周囲にある可燃性植物の伐採などの義務付けだ。国際規範評議会によると、カリフォルニア州や他のほとんどの西部州を含む21の州が、火災軽減のための特定の基準を採用している。
ハワイ州のコミュニティのほとんどは、包括的な緊急事態への備えや災害対応計画を持っていない。
マウイ島ラハイナ火災の際、州内相互扶助法を利用して、追加の消防資源を共有することができなかった。
ハワイ州は州消防保安官がいない唯一の州である。現在、州消防評議会がその職務を果たしているが、他州では、知事に直接任命され執行権限を持つ州消防保安官が存在する。
人員不足で、国の基準を下回る人員レベルで運営されている消防団がいくつかある。
4.予防と対応策、現在ある強み
社会インフラ: 政府機関、熱心なコミュニティ、教育リソース、およびコミュニティ主導の計画 (Firewise コミュニティ、コミュニティ山火事保護計画) 間の関係。
燃料(燃えやすい植物)管理に関する地元および先住民族の知識: 伝統的な農業慣行、放牧、生態系の回復、植物の繁殖、歴史的な水の利用。
科学技術の基礎: 高解像度の火災履歴データ、現在および将来の火災確率マップ、燃料(燃えやすい植物)マップ、気候データ、火災後の対応、燃料(燃えやすい植物)軽減。
水の使用に関するハワイ独自の法律。水はパブリックトラストに委ねられると定められている。
《上記の「強み」は、本当に「強み」なのか、「強み」といえるレベルなのか、個人的にはよくわからない。
以下、ピンクのエリアで「山火事対応計画」が完了しているそうだ。
我がコミュニティでは存在していないので、どんな計画なのか興味のあるところ。
だが、上の「課題」で包括的な計画がないとあるので、何かもう一歩が必要なのだろう。》
【推奨策】
1.発火を減らす
効果的な山火事防止のカギとなる発火防止についての啓発キャンペーンを行う。
Red Flag Warning (警報)中の第4級放火に対する刑事罰を強化(現在は軽罪)。
地域社会から放火犯を排除する法執行機関の能力を強化する。
《放火の愉快犯が一番怖い。でも、犯人検挙にも至っていない現状。。。》
住民の花火使用に対する制限(許可済のイベントをのぞく)。花火の密売、販売、使用に関連する州および郡の法律の施行。
《もう何年も問題になっているのに、取り締まりはほとんどなく、毎年ほんの一部しか発見逮捕に至らない現状。法執行部に花火で儲けている人がいるんじゃないかとかいう噂まであるくらい。これを本当に執行できるのか。》
発火の可能性がある場合の、停電した送電線および電源に関するベストプラクティスの開発。
火災危険区域における公共電線や新規電線の地下化推進。
《最初に木の枝の間を走る電線を見た時には驚いた。電線のまわりの枝を定期的に切ってるけど、強風が吹けば枝で電線が切れる可能性もある。確かに地下化できれば良さそうだけど、予算や人員的にどのくらい実現可能なのだろう?》
土地を管理し山火事のリスクを軽減するため、郡、コミュニティ組織、野営地との連携。
土壌への水分の浸透と保持を高め、地下水のリチャージを強化する取り組みへの支援増加。
流域修復プロジェクトや生態系修復プロジェクトに提供することを目的とした、在来植物の苗や種子銀行(シードバンク)の取り組みへの支援増加。
《在来植物を植えた時、自然体系でそれがどのくらい残るのだろう? 繁殖しやすい植物を抑えて在来種を増やすのは実際可能なのだろうか?》
2.燃料負荷の削減
かつての農地や休耕地での開発など土地利用を変えようとする場合、さらなるリソース、インセンティブ、政策をもって緩和措置を促進する。
《分かりづらいけど、農地を住宅などのコミュニティに開拓する場合には、防火対策を含めるってことかな。 》
公共および個人の土地所有者による「(火災)防御可能なスペース」の設置と維持を促進するための新しい条件を作り、違反した場合は法的措置をとる。
《具体的にはどんな「スペース」をイメージしているのか??? 》
消防活動の安全性と有効性を高めるための準備計画、インフラ改善、燃料(燃えやすい植物)の削減。
《この植物撤去がめっちゃ難しい。だって抜いても抜いても生えてくるし生長がバカ早い。自分の家のまわりの管理でも大変なのに、山の中とかどうできるのか??? 除草剤使っちゃ枯れて余計燃料作るようなもんだし。 》
燃料(燃えやすい植物)削減ツールとして管理放牧を奨励。
《これ、私のイメージが正しければ、ハワイ島とかアイルランドのようになるってこと? 乳牛だったらハワイ産の牛乳が再び誕生するし素敵なんだけど、放牧ってCO2の敵にされてる世論なのに牛の数増やしてくれるのかな。 》
州および郡の資金を活用した森林修復プロジェクトの場所を決定する際には、燃料負荷の高さ(燃えやすい植物)と火災の危険性の高さを考慮する。
持続可能な農業を促進しホリスティック(総合的)な方法で燃料負荷を削減するような、より大きな生態系を作り出す資源を共有する、境を越えた土地のパートナーシップ(流域パートナーシップなど)への州の積極的な関与。
《結局、ぶちぶち切って分けて管理するより、大きな生態系の方が自然のバランスが取れるってことだよね。プランター栽培より地植えの方が自然体系が働くのと同じかな。》
3.コミュニティーの関与
Firewiseコミュニティの奨励。 Firewise USA® プログラムは、コミュニティが山火事と共存できるよう手助けし、近隣住民が協力して被害を防ぐために今すぐ行動を起こすことを奨励するものである。
《Firewise USA®、また後日どんなものかチェックしてみようと思う。》
州全体の地域山火事保護計画の策定を支援。
既存の緊急事態への備えと災害軽減計画を修正し、必要に応じて地域の山火事保護計画を組み入れる。
これらの計画を実現するために必要な州および郡のリソースを特定する。
4.コミュニティーを守る
山火事の危険とリスクに対処し軽減するための計画、ゾーニング(用途別の区域分け)、開発レビュー、および建築コードの施行に関するベストプラクティスの一覧表を作成する。
電力インフラおよび送電線に関するベストプラクティスおよび法律を策定する。
山火事から構造物をより適切に保護するような建築基準を作る。
コミュニティの計画、設計、エンジニアリングに火災危険軽減基準を組み込む。
例えば、山火事に安全な区画設計、住宅や住宅街の周囲に設置する防御可能なスペース、適切な緊急時アクセス、消防道路、水道インフラなど。
業界の専門家(Insurance Institute for Business and Home Safety / National Institute for Standards and Technology など)と協力し、家を強固にするガイダンスを作成。
「山火事安全」建物に対して、税金や保険による優遇措置を設ける。
公共目的で使用されていない、または適切な保全計画によって管理されていない土地への課税を強化し、ランドバンキングを抑制。
執行当局と捜査官を備えた「州消防保安官」の設置に関し、他州のモデルを調査する。
Hawaii Emergency Management Agency(ハワイ緊急管理局)のサイレンのネットワークを拡張し、カメラやその他の技術でアップグレードする(利用可能になり次第)。
5.山火事の鎮圧
特に州職員による対応能力を高める。
《もちろん全員じゃないけど、仕事がスローだと悪名高い州のお役所。。》
すべての郡消防団が少なくとも国家基準を満たす人員レベルを維持できるよう、州の人員配置基準の設定。
《今までも困っていた人員不足、どうやって集めるのか??》
山火事専用の設備と山火事抑制インフラを維持および更新する。
(浸漬タンクの拡張、貯水池の修復)
可能な場合は民間所有の貯水源を使用する継続協定の交渉。
すべての対応機関に対し、野原火災訓練の機会を増やす。
州内相互消防援助を提供する郡の能力を確認。
州間で火災リソースの効率的な移動ができるよう、ハワイ州に「State Wildfire Compact」への参加を認可する。
《山火事の際に州を越えて協力しようという協定。いくつかあるようで、具体的にどの協定をさすのかはわからなかった。ハワイへは海を越える長距離だけど、今回のオアフ島ミリラニの山火事の時も5日目くらいにカリフォルニアから援助が来てくれたし、本土の西から東に飛ぶのも時間かかるし、あまり関係ないのかな。でも、州内でも人員不足なハワイが、他州へ派遣する余力があるのだろうか? 》
6.火災後の対応
浸食防止、長期的な森林修復、在来種の植林、雑草の抑制と除去など、火災後の復興活動にリソースを提供する。
必要に応じて、放牧に適した短草のハイドロスプレー使用(水に混ぜて種をスプレー)を、独立した手段として、または在来種の植栽と組み合わせて使用することを検討。
《この短草は、火災の燃料とはなりにくい植物ってことだよね。いずれにしろ、例の燃えやすい植物が一気に生えてくる気はする。なんたってどこからか種が飛んできて勝手に増えていくんだから(涙)。けど、その前に放牧できればそれも一緒に食べてくれるのかな。放牧って土地も肥沃になるというし、個人的には期待したい~》
7.山火事に関するリサーチ
水資源の評価。消火/予防/軽減のための「緑の防火帯(green firebreaks)」などに使える水資源をより深く理解する。
《青々と育った草や茂みが火の広がりを止めるらしいんだけど、青々と育てるためには水が必要で、その資源がどのくらいあるかの調査ってことかな。》
種子の生産/保管の評価。山火事により被害を受けた公共および民間の土地所有者に種子と苗木を届けるためのシードバンクおよび/または苗床のニーズを評価する。
山火事の拡大を阻止するのに役立つ、水分を多く含んだ耐火性の在来種を戦略的に植栽して作られた「緑の防火帯(green firebreaks)」の使用を評価する。
火災の評価/マッピングによりリスクの高いエリアを特定し、軽減と予防の取り組みに優先順位を付ける。
《以下は、Hawai`i Wildfire Management Organization (HWMO)が出してるリスクマップ。赤いところが高リスクなんだけど、、、オアフ島、高リスクの場所多すぎじゃない この赤いエリアの中でも優先順位があるんだろうね、きっと。》
山火事に対する気候変動の複雑な影響、特にハリケーンや干ばつなどの異常気象に伴う危険性増大のリスクについて、より深く理解をする。
水文干ばつ(利用可能な水の埋蔵量が平均を下回っている)が、ハワイの山火事発生にどの程度影響を与えるかを、地下水位の低下と火災の増加との関連性の分析を含め分析する。
以上です。
いやあ長かった。
ここまで読まれた方、あなたは文章を読むのが苦じゃないという貴重な存在です
報告書、熟読させてもらったけど、このうちどれくらいが実行可能なんだろうね。
ラハイナの後、何か対策をせねばと、とりあえずまとめたってのもあるような。。。
具体的に何をどう進めるのか問いたいところも多々。
先日、オアフ島ミリラニの山火事の際、万が一裏庭に迫ってきたら(その可能性はまず無かったけど)という設定でツレが力説してた案がこれ。
「まず、その木(大きなマンゴーとバニアンの木がある)の向こうの枯草や藪を全部切り倒す。それからスプリンクラーをたくさん買ってきて、家の周りに水を撒きまくる。」
火が迫る前にお店へ行ってスプリンクラーを買って戻って設置する時間は無いと思いますが、、、
さらには、大量のスプリンクラーにまわるほどの水圧も無いと思いますが、、、
まあ考えとしては、「防御可能なスペース(草を刈って燃えない空間を作る)」と「水分たっぷりの緑地」で家に火が移るのを防ごうってこと。
果てしないほぼ不可能な雑草との戦いよりは、、、このお家に感謝して祈ることにします