ヨウ素131の甲状腺等価線量換算係数の見積もり方 | renormalization

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再規格化(くりこみ)

等価線量、組織荷重係数、実効線量について学び直そうという動きがあるので、今回は成人の場合についてのヨウ素131の甲状腺等価線量換算係数を見積もり方について、以前より詳しく考えたいと思います。


●体内動態モデル

ヨウ素131の体内動態モデルは次の資料にあります。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001cyyt-att/2r9852000001cz7c.pdf p.20

http://www.iaea.org/inis/collection/NCLCollectionStore/_Public/37/022/37022170.pdf p.126


ここでは、甲状腺への移行率をF=0.30としてみます。


この資料によると、成人の場合、ヨウ素131の甲状腺での生物学的半減期は80日とされていますが、ヨウ素131は血液→甲状腺→残りの臓器→血液→甲状腺という感じで、体内を周回して再び甲状腺に戻ってくるので、実質的な甲状腺での生物学的半減期は80日より長くなると考えられます。そこで、次の資料の図4-3と表4-7に与えられた甲状線のヨウ素131の残留量の時間変化から、甲状腺での実質的な実効半減期Teと実質的な生物学的半減期Tbを逆算してみたいと思います(ただし、この時間変化は吸入摂取の場合ですが)。

http://www.remnet.jp/lecture/b03_01/a02.html


吸入1日後と100日後のデータから逆算してみると、


exp(-ln2×99day/Te)=6.7/5.7E+4


という関係より、


Te=ln2×99day/ln(5.7E+4/6.7)

 ≒7.58day


となります。また、物理的半減期はTp=8.04dayなので、


1/Te=1/Tp+1/Tb


という関係より、


Tb=Tp×Te/(Tp-Te)

 =8.04day×7.58day/(8.04day-7.58day)

 ≒132day


となります。


●甲状腺内でのヨウ素131が崩壊する割合S

甲状腺ではヨウ素131原子核の個数Nは物理的崩壊と生物学的な排出によって減少していきます。

物理的崩壊定数をλp、甲状腺での実質的な生物学的崩壊定数(排泄定数)をλbとすると、単位時間あたりのヨウ素131の原子核の個数の変化dN/dtは、


dN/dt=-(λp+λb)×N


と表せるので、甲状腺内で崩壊する割合をSとすると、


S=λp/(λp+λb)


となります。ここで、物理的半減期をTp、甲状腺での実質的な生物学的半減期をTbとすると、

Tp=ln2/λp

Tb=ln2/λb


という関係があるので、TpとTbを用いてSを表すと、


S=(ln2/Tp)/(ln2/Tp+ln2/Tb)

=Tb/(Tp+Tb)

=132day/(8.04day+132day)

≒0.940


となります。


●ヨウ素131の1Bqあたりの原子核の個数A

ヨウ素131の物理的半減期は8.04dayなので、


A=(3600×24×8.04)÷ln2個/Bq

≒1,00E+6個/Bq


です。


●体内でヨウ素131の1崩壊あたりの甲状腺で吸収されるエネルギーE1

次の資料によるとヨウ素131の1崩壊あたりで放出される放射線の平均エネルギーは、


β線:0.19MeV

γ線:0.38MeV


であることがわかります。

http://www.evs.anl.gov/pub/doc/Iodine.pdf


ただし、甲状腺の大きさは非常に小さいので、甲状腺がγ線を吸収する割合はかなり低いことが知られています。次の資料によると、MIRD法では1MeVのγ線源が甲状腺にあった場合、1崩壊あたり甲状腺が吸収する平均エネルギーは0.03MeVとなるようです。

http://ci.nii.ac.jp/els/110003455177.pdf?id=ART0003915440&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1328614622&cp


したがって、ヨウ素131の場合も甲状腺から放出されたγ線のエネルギーの3%が甲状腺に吸収されることにしてみます。そうすると、


E1=0.19MeV+0.38MeV×0.030

  ≒0.20MeV


となります。


●甲状腺等価線量換算係数TEDC

甲状腺以外に分布するヨウ素131から放出されるγ線の影響を無視することにし、成人の場合の甲状腺の質量をMt=20gとすると、成人の甲状腺等価線量換算係数は、


TEDC=(F×A×E1×S)/Mt


で見積もることができます。ここで、ヨウ素131の生物学的半減期は50年よりずっと短いので、TEDCは預託等価線量換算係数とみなして問題ありません。各数値を代入すると、


TEDC=(0.30×1.00E+6個/Bq×0.20MeV×0.940)/20g

    =(0.30×1.00E+6個/Bq×0.20×1.60E-13J×0.940)/20g

   ≒0.45μSv/Bq


となり、ほぼ再現できました。