PHANTOM2015は漸く全てのチームが初日を迎えました。
2011年のPart1、2012年のPart2を経て、再演である今回はPart1、Part2の同時上演。
稽古は9月のカフェ30th直後から開始し、準備期間を2カ月とっての公演。
この二つの作品を立体化するにはいくら時間があっても足りず、いつの間にか季節も変わっていた…そんな時間でした。
稽古場初期から、倉田さんが幾度となく零した
「初演で納得できなかった」
といった部分。
誰が、どこが、ということではなく、
倉田さん自身が当時は勢いで乗り越えてしまった部分を自戒し、
「より丁寧で、繊細な人物関係を描きたい」
そんな風に話したことを思い出します。
今回のファントム。ほぼ全ての登場人物に倉田さんはメスを入れました。
これは、実はちょっと珍しいことです。
笠原さんや芳樹さん、石飛さんや徹さんといった、自己演出能力に秀でた役者には、あまり細かい注文は出さずに役者の裁量に任せ、ちょっとした調整だけ倉田さんがする、ということもしばしばあるのです。
倉田さんの本気の本気は本当に凄い。演じている役者よりも全ての役に於いて理解が深く、またその表現が作品全体にどのような影響をもたらすかを熟知、熟考して、一つ一つシーンを積み重ねていく。
そして、僕らはその倉田さんの演出の中で、派生的に各々が役や作品に対して新たな発見をし、それらを役に重ねていく。
再演ではありますが、こうして今回のメンバーで構築した今回のファントムは、同じ作品世界でありながら、初演と同じ役、違う役に関わらず、初演とは全く違う感覚で僕らは臨んでいます。
僕個人で言うと、特にPart1ではジャベールからマンサール神父に役代わりしたこともあって、全く違う作品世界で生きている感覚です。
稽古初期にはどうしても山﨑さんが演じた神父が焼き付いて離れなかったのですが、
「まっきーがやるんだからそうじゃない。キンちゃんと同じことする必要はないの」
という言葉に背中を押され、今では僕なりの神父に昇華しつつあります。
洗練された演技をしているつもりは全くありません。神父という役は本当に難しい位置にいて、いくら演じようとしても、僕に演じることはできませんでした。
だから、やめました。
演じることを。
ただ、生きようと。
マドレーヌの為に、エリックの為に、
ボッシュビルという小さな村の為に、
ただ生きればいい。
日々ただそれだけで、神父という人生を過ごしています。
そして、今回は初めての試みとなった、ファントム二作品上演。
エリックの生涯を誕生から最期の時までを僕らは日々追いかけることになります。
実際に1と2で共通の役を演じている役者は多くはありませんが、僕らは自分の役を全うしつつ、全員でエリックの人生を見守っています。
エリックに好意的な役を演じる役者は勿論ですが、そうでない者も、役者としてはエリックの為に存在しているのです。
だからこそ、このファントムという作品は、とてもスタジオライフらしい、愛に溢れた世界になるのだと思うのです。
トーマの心臓で、みんながトーマに想いを寄せるように、自然とみんなが一つになれる。
沢山の痛みを抱えて生きるエリックに、いつも自分は1人だと言うエリックに、僕ら出演者20人はただ黙って、心を寄せる。
そしてまた、客席で見守って下さっている皆さんも同じように、ただ黙って、エリックに想いを寄せている。
その時間は、なんとも言えない幸福です。
本当に、本当にありがとうございます。
これから約一ヶ月、まだまだ旅は続きます。
12月7日、エリックがその生涯を本当に終えるその時まで、
劇場で、またご来場にはなれなくても、
想いを馳せていただけたなら、
本当に幸せです。