7月9日。火曜日。
稽古場最終日から実に9日目。とうとうXさんのラウールがお披露目となりました。
皆さんご存知の通り、Xさんの正体はJr.10の松村泰一郎。
稽古開始から実に2ヶ月。まつしんが客演から合流する半月以上前から稽古し続けていた松村がついにラウールとして舞台に立つその日。
劇団員だけでなく、その日は全ての関係者が彼の初日に向けて朝から動いていました。
彼自身も初日からずっと自分の出番のないときは、舞台袖やブースやモニターでまつしんや大さんが演じるらウールを追いかけ続けていました。
「ホント、日にちが経つのが遅いですね(笑)」
冗談めかしてちょっと困ったような顔でこぼしていた彼。
稽古場から見守ってきた僕たちはきっとやってくれるとみんな信じていました。でも、本当の初日から6日目にして、しかもXさんとして名前を伏せられた状態で初日を迎える彼のプレッシャーは、並大抵のものではないことも、同じ役者として誰もが解っていました。
アクションシーンを中心に場当たりを終え、ゲネプロ。
朝イチで劇場入りして出はけや袖での動きの引き継ぎを担当したまつしんは、常に舞台袖で待機して、松村を見守り、時に声をかけて彼をサポートしていました。
大きな失敗こそ無かったものの、細かい失敗を繰り返してなんとか終えたゲネプロ。久しぶりにラウールの膨大な台詞を全て本息で口にした松村は、初日を前に息も絶え絶えのようにも見えました。
それでも、みんな彼の心配はしていませんでした。稽古場からずっと見守っていたからこそ、必ずやってくれると信じていました。
そして、彼が彼の全てを出し切れるよう、全力でサポートしようとみんな暗黙のうちに心に決めていました。
19時、開演。
楽屋で、舞台袖で、みんなが息を飲んで舞台に集中していました。
とうとう松村がスタートを切る。
これは勿論今回の作品のEチームのスタートですが、何かそれ以上のもっと大切なスタートのような空気がみんなの中にあったような気がします。
本番。
舞台上で松村は、本当に生き生きとラウールの人生を生きてくれました。
まるでこの9日間内に溜めていたものを一気に放出するかのように、このステージに全てをぶつけようと舞台に立っている。それを誰もが感じられる、そんな姿。
「くそ、やるじゃねぇか(笑)」
序盤から袖で眺めていた僕は、そんなふうに感じたりもしていました。
そんな彼の力になりたいと他の出演者も全力以上の力で彼にパスを送り続け、舞台をつないでいく。
「皆に支えられて、背中押してもらって、やっとこの役として舞台に立てている」
終演後にそう挨拶した彼。
それは彼にとって紛れもない事実で、
自分の身の丈以上の役を任せられたと自覚せざるを得ない苦しみと戦ってきて、素直に出た言葉だったと思います。
でも、お前が本当に必死だったから、みんな死ぬ気でお前を支えようと思った。なんでもいいからお前の力になりたくて踏ん張った。
それって、みんなを引っ張ってくってことと、結果は同じなんじゃないか?
僕はそんな気がするのです。
少なくとも僕は、ちゃんと引っ張ってもらいました。
だから、カーテンコールで彼への拍手が一際大きく劇場に響いたのも、お客様の温かさだけじゃなく、彼自身の駆け抜けた道があったから。
それがちゃんとお客様に伝わったのだと、僕は思いました。
松村ラウールはあと4回。
彼の成長していく姿と、僕らが一つになる瞬間を、皆さんにも応援していただけたら、本当に幸せです。