子どもの頃はいやなことがたくさんあった。ピーター・パンは大人になりたくないというけれどわたしはごめんだ。大げさだけれど誰かに虐げられたり、言い返せなかったり、できないことがたくさんある毎日だった。もちろん楽しいことやうれしいことだってあった。そんなことを思い出す。

 ここに描かれるのは幸田文の少女時代の逸話だ。とても丁寧に淡々と描かれ、情愛に溢れている。

 幸田露伴の娘であることは特別なことだし、時代背景だって全然違う。それなのにわたしはこの心細さを知っている。ささいな喜びも寂しさも焦りも、少女だった文が抱く感情に共感する。わたしもまたみそっかすだったのだ。


『みそっかす』

幸田文

1983年 岩波書店