→ 2010.8.17 日経BPネット 「菅首相には国家戦略もその知識もない 石破議員が『昭和16年夏の敗戦』を引き合いに出した真意」
開戦直前のできごととしては、とても新鮮な内容でしたので、興味シンシンで読んだのですけど、事前の期待感が強すぎたせいか、読後感は「?」がついてしまう内容でした。
昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)/猪瀬 直樹

¥680
Amazon.co.jp
例によってAmazonの内容紹介です。
若手エリートたちによって構成された「模擬内閣」は、あらゆるデータを基に日米開戦を分析、昭和16年8月の段階で「日本必敗」の結論を導き出していた。
数少ない資料・当事者の取材を通して机上演習をも再現する。
昭和16年、「内閣総力戦研究所(Wiki)」に軍部・官庁・民間から選りすぐった将来の指導者たちが集められた。それぞれの出身母体に応じて「模擬内閣」を組織し、戦局の展開を予想したのだ。
単なる精神論ではなく、兵器増産の見通し、食糧や燃料の自給度や運送経路、同盟国との連携などについて科学的に分析、「奇襲作戦が成功し緒戦の勝利は見込まれるが、長期戦になって物資不足は決定的となり、ソ連の参戦もあって敗れる」という結論を導き出した。
この報告は昭和16年8月に、当時の近衛内閣にも報告され、後の首相となる東條陸将も真剣に受け止めていたはずだった。
この本のキモは、言うまでもなく、昭和16年の開戦前の時点で、その後の敗戦を的確に予測していたということでしょう。
また、当時の日本で、将来を嘱望されていた官民の "the Best and the Brightest" (ベスト・アンド・ブライテスト)な30代約40名を集めて、このようなシュミレーションを行ったという、その理性的(に見える)な政府の行動も、ワタクシにはとても珍しく写りました。
一般に、本書に限らず、開戦を回避しようとした試みや、敗戦を予想していたといったことがらは、当時さまざまにあったことを現在のワタクシ達は知ることができます。
しかし、そのすべてが失敗したことを知っていながらそれらの物語を読み進むには、いつも一種の挫折感や徒労感がつきまとってしまいます。
だから総じて、情熱的でありながらちょっと暗い、というのがこの時期の物語のパターンに思えます。
ところが。
この本から出てくる官民のthe Best and the Brightestたちには、そういった挫折感が感じられませんでした。
東條英機に対して、日本必敗シュミレーションを発表しておきながらです。
だから、彼らは、優れたシュミレーションを作り出しながら、その実現(開戦回避)に向けた行動は全く起こしません。
それどころか、来るべき敗戦に向けた準備(白洲次郎のそれのような)は全くせず、戦後に困窮する人まで出てくる始末。
もちろん優秀な人たちばかりですから、戦後社会の中ではそれなりのポジションに就いたケースは多く見られました。
でも、開戦前の日本で最も優れた人間たちだったにもかかわらず、たとえば政治家になって後世に名を残したりしたヒトは一人もいませんでした。
結局、彼らは優秀な人たちでしたけど、それでもまだ無力で、体制に順応する官僚であったということなのでしょう。
その意味で日本の官僚たちは、" noblesse oblige (ノブレス・オブリージュ=位高ければ徳高きを要す・ Wiki)"は身につかなかったと言えるかもしれません。
その意味で、現代に通じる、高級官僚の国家に対する無責任さをこの本からも感じてしまいました。